第五話「追撃者《クロックワーカー》と異能の真価」
フィルとの戦いを終え、俺は肩で息をしていた。
《刻断者》――通称“ディバイダー”は、まるで眠るようにその輝きを静めていたが、確かに今、俺と共にあった。
「……なあ、お前、喋れんだろ。なんか言えよ」
沈黙。だが、ディバイダーの柄に触れる指先が、かすかに熱を帯びる。
(なるほど、言葉じゃなく“感覚”で伝えてくるタイプか)
ようやく、自分の中でこの“異能の武器”との繋がりが芽生え始めた気がした。
だがその余韻は、突然破られる。
「逃げたと思った? 甘いよ、コードランク《無印》の坊や」
ビリッという空気の歪みとともに、異様な存在が出現する。
銀色の懐中時計が宙に浮かび、時間が“止まった”。
「っ……!?」
何が起きたかわからなかった。
俺は次の瞬間には、地面に膝をついていた。背後からの一撃。
「おっと、反応はそこそこ。だけど君にはまだ“位階”が足りない」
現れたのは、一人の青年だった。黒いロングコートに、機械仕掛けの腕時計を無数に巻いた異様な風貌。
「コードネーム:《クロックワーカー》。
俺の異能は《時間制御》。よろしく」
皮肉な笑みを浮かべた男は、足元から小型の歯車を回転させる。
それが周囲の空間に干渉し、景色すら揺らぎ始めた。
「……次元干渉かよ……!」
フィルが目を見開いた。
「アイツ……下位組織の時間管理局所属。なんでこんなところに……!」
「なんでって? 君たちが“壊れた武器”を覚醒させたからだよ。
時空干渉の記録が、コードZエリア全域に警報を流した」
クロックワーカーは一歩ずつ俺に近づく。
「君は、まだ本当の“異能戦争”の意味を知らない。
だが安心して。死ぬまでに教えてあげるよ――少しだけね」
視界が歪む。時間が止まる。音が、遅れて届く。
だが――
(……わかる。ディバイダーが、俺に言ってる)
『その男の“時間干渉”は、切断できる。』
刃を構える。
まるで世界が“動き出す”瞬間を、俺は直感で感じていた。
「やってみろよ、時計野郎。
“お前の時間”を、俺のこの一振りで――止めてやる!」
――刃が、時を裂いた。