第六十話「記録塔、最上層にて」
そこは、現実と記録の狭間に存在する空間――《記録塔》最上層。
時の流れも、空間の構造も、すべてが「不確か」なまま、陸はたった一人でそこに立っていた。
目の前には、黒き玉座に腰掛ける《削除王》。
その身体は明滅を繰り返し、まるで存在そのものが“世界の余白”から溢れ出したようだった。
「ここが……全部の“中心”か」
陸はレムを構え、玉座を見据える。
『ようこそ、【記録の王階層】へ。
歓迎しよう、記録されざる者――“空白の記録”よ』
《削除王》の声が響いた瞬間、空間に無数の“記録片”が舞い始めた。
それらはすべて、失われた世界の断片。
滅びた街、名前すら忘れられた仲間、そして――
「これは……オレの、過去……?」
陸の目の前に、一人の少女の映像が現れる。
それはかつて彼が「何かを失った記憶」に残っていた、微笑む少女――。
【記録片:カノン=失われた時間】
「やめろ……それは、見せるな!」
レムが震える。
それは“武器”であると同時に、“彼女”の記録そのものだった。
『君が最も恐れるもの、それは自分自身の喪失だ』
《削除王》の指がひとつ、空を指し示す。
『記録塔よ、命ず。空白を証明せよ――“存在の無効化”』
空間が崩れ、陸の身体が“解像度を失い始める”。
「ぐっ……っ、まだだ!」
必死にレムを握りしめる。
その手が、微かに“音”を放った。
カチリ――
その瞬間、レムが青白く発光する。
【限定解除:コード・アーカイヴ04「失われし契約」】
「……!? 今、何をした……?」
『おかえり、陸くん』
聞こえたのは、レム――いや、カノンの声だった。
『君が、もう一度“選ぶ”ために。私は……君とここにいる』
塔が震える。
その中心に、記録されなかったはずの“新たな物語”が刻まれ始める。




