第五十九話「削除王、降臨」
「記録照合完了。余剰データ、即時削除――」
その声は機械のように無機質でありながら、どこか“人間的な憎悪”すら滲んでいた。
削除王。
かつて存在した全ての“記録兵器”の中でも最古にして最強と呼ばれた存在。
その力は、「世界そのものの書き換え」に至るとされる。
「セラ! ミオ! 分散して動け! まともに相手してたら削られるぞ!」
陸が叫びながら、レムを構える。刃先には無数のデータ片がまとわりつき、ギリギリと不穏な音を立てていた。
【警告:武装形態の分解を確認。敵存在は“記録の王階層”】
セラフィナが咄嗟に地を蹴る。
瞬間、彼女がいた場所が“白く塗りつぶされ”、何もなかったように消滅していた。
「ッ……一瞬でも触れたら“存在そのもの”を上書きされる……」
ミオは高速で演算コードを展開。
周囲の構造情報を読み取り、即席の“遮蔽フィールド”を形成する。
「少しでも時間を稼ぐしかない……この記録場は、“王”の領域下にある!」
だが、その隙を見逃すほど《キング・イレース》は甘くなかった。
「記録権限:上位取得。書き換え命令、発動」
空間が、音を立てて“再構成”される。
陸たちの立っていた地面が解体され、三人はバラバラに転移される。
「なっ……!」
陸の視界が歪み、気づけばまったく違う記録領域――
“誰もいない教室”に立っていた。
しかし、そこにいたのは――
「……お前、誰だよ」
窓際に立つのは、どこか見覚えのある“自分”に似た少年。
だがその瞳は酷く虚ろで、まるで“すでに消されかけた記録”のようだった。
『……ボクは、“消された君”だよ』
「……は?」
『君がかつて“失ったはずの未来”を背負っていた記録。
でも、《彼》が来て……君の運命は書き換えられた』
「《彼》って……まさか、《削除王》……?」
少年が微笑む。
『君が王に勝てない理由、それは――
君自身が“まだ記録されていない”存在だから』
その言葉と共に、教室が溶けていく。
やがて現れたのは、“記録世界の中枢”――《記録塔》。
そしてその塔の最上層に、あの黒き王が再び立っていた。




