第四話「初めての敗北と、契約の記憶」
「くっ――!」
次の瞬間、俺の視界は回転していた。
――地面に叩きつけられた。
背中に衝撃が走る。空気が肺から一気に抜けた。
「だいぶ粘ったね。でも、ここまでだよ」
フィルの声が、どこか楽しげに響く。
気づけば俺の手から《刻断者》が零れていた。刀は蒼く光を揺らしながら、床に転がっている。
「まだ、やれる……!」
立ち上がろうとする俺に、膝が言うことを聞かない。
身体が動かない。
いや――心が、折れかけていた。
(なんで俺が……こんな戦いに巻き込まれて……)
ほんの数日前まで、俺はただの高校生だった。
勉強も運動も普通。学校では空気で、誰にも注目されない存在だった。
それが今、世界の裏側で命をかけて戦っている――。
「君には素質がある。でも、覚悟が足りない」
フィルの言葉は、真っ直ぐに俺の胸を刺す。
「武器はね、選ばれた人間の心を映すんだよ。だから、“中途半端な覚悟”じゃ本当の力は引き出せない」
俺の隣で、ディバイダーが微かに揺れた。
その刃の奥から、声が聞こえた気がした。
『――問い直す。お前は、何のためにこの力を望んだ?』
幻聴か、記憶か。
でも俺はその問いに、なぜか即答できなかった。
何のため?
誰のために?
俺はただ、巻き込まれただけじゃなかったのか――?
そのとき、頭の中に流れ込んできた映像があった。
――幼い頃、誰も助けてくれなかった夜。
――必死に声を上げても、大人たちは見て見ぬふりをした。
誰かを助けたかった。
誰かを救える力が、あの時自分にあればと、ずっと思っていた。
『契約、再接続。条件――“存在意義の再定義”。』
《刻断者》が淡く光った。
刃が宙に浮き、俺の手元へ戻る。
「おお……コード兵装が、自発的に戻る!?」
フィルの驚きが響く中、俺はゆっくりと立ち上がった。
「もう一度だけ……立たせてくれ、ディバイダー」
手に馴染む感触。
砕けたはずの刃は、今は完全な形を成していた。
「君、本当にただの高校生か……?」
フィルが戦慄する中、俺は構えた。
「俺は――俺の力で、誰かを救う。
そのために、この武器と戦うって決めたんだ!」
斬撃が空間を裂く。
その一閃が、世界の法則すら揺るがす予兆となった。