第五十七話「記録地帯《第六層》:空白の王座」
白い光が晴れると同時に、目の前に広がっていたのは、荒廃した巨大な図書館のような空間だった。
天井は果てしなく高く、本棚にはぎっしりと無数の「記録媒体」が並び、ところどころに焼け焦げた痕や崩落した構造が見える。だが、どの破損部分にも共通していたのは――
「人為的な……“削除”か?」
陸が呟く。
ミオが頷いた。
「ここが《第六層記録地帯》。この世界が運営される前――《旧時代》のデータが保管されていた場所。だけど、それは“意図的に”消されている」
「つまり、本当にヤバい真実が隠されてる場所ってことね」
セラフィナが言葉を継ぎつつ、警戒を怠らない。
ミオが案内する形で進んでいくが、やがて彼女は一つの棚の前で立ち止まり、手をかざした。
《アクセス認証――完了。記録媒体“リコレクト・ゼロ:プロト”解放》
棚が滑るように開き、内部から一つの筒型の装置が浮かび上がった。
「これが……俺の武器の、原型……?」
陸が恐る恐る手を伸ばすと、筒から投影された映像が、空間に浮かび上がった。
そこに映っていたのは――
“零式記憶兵装計画”
目的:兵器に『感情』と『記録』を刻むことで、絶対の信頼性と再現性を獲得する。
問題:記録に感情が染みすぎた場合、兵装が人格を持つ恐れあり。
結果:試作機001“レム”暴走により計画は凍結。開発責任者および設計データ抹消。
「“レム”? 聞いたことがある……」
陸は一瞬、頭の中にノイズとともに現れた“誰かの声”に顔をしかめる。
『君は、もう一度……世界を思い出すべきだよ、陸。』
「……っ!」
思わず頭を押さえ、膝をつく陸。その背後に、黒い靄のような気配が現れた。
「来たな、《記録抹消兵》。奴らにとって、ここは“最も消し去りたい場所”だ」
ミオが言い終わるのと同時に、宙から多数の黒い兵装が降下してくる。
その武器はどれも、刃を持たず、代わりに“記録を断ち切る光”を纏っていた。
「ここは……通さない。お前らに、俺の“記憶”は渡さない!」
陸が《壊れた武器》――今は名を持った《レム》を手に、立ち上がった。
セラフィナが背後を守り、ミオがサポートコードを起動する。
「陸、次の戦いは《記憶そのもの》との対話になる。負ければ君自身の存在が、記録ごと消される」
「……上等だ。空気なまま終わるくらいなら、俺は“記録に刻まれる存在”になってやるよ!」
――少年の叫びが、空白の王座に響く。




