第五十二話「ゼロからの選ばれし者」
映像が消えたあとも、陸たちはしばらく言葉を失っていた。
空には何の痕跡も残っていない。ただ、あの言葉だけが焼き付いている。
「君は“記録から消された側”の者だ」
「意味が、分からねぇ……」
陸がぼそりと呟く。だが、心のどこかでは――それを否定できない自分がいた。
セラフィナが慎重に言葉を選ぶ。
「“記録から消された”って、どういうこと? 陸……あなた、本当にこの世界の人間?」
「俺が? 違う世界の人間ってことかよ……いや、それも変だろ。俺は普通の高校生だったんだ。少なくとも、昨日までは」
その“普通”が、本当に存在していたのか。
そう考えた瞬間、陸の脳裏に“黒い靄”のようなものが浮かぶ。
感覚だけがある――だが、形も、色も、声も曖昧な記憶。
アルカが小さく警告を発した。
「記憶の中に“改ざん”がある可能性がある。リコレクト=ゼロの反応は……封印された記憶の“鍵”として作用しているみたい」
陸の手の中、〈リコレクト=ゼロ〉が微かに光を放つ。
【新たなアクセスコードを検出】
【対象:記録ノードB13 開放可能】
「開放って……何が起きる?」
その問いに答えるように、武器が震える。
次の瞬間――
陸の視界が、強制的に“接続”された。
◇
≪記録ノードB13≫
ノイズ混じりの映像の中、少年が一人、施設の中で眠っている。
その顔は――城戸 陸に酷似していた。
「観察対象コード:R-0(アール・ゼロ)。進行は安定、外部記憶の消去は完了」
「次回覚醒フェーズに備え、擬似生活環境へ移行処理中」
音声が重なる。
「これより、“偽りの高校生活”を与える。接触対象は制限付き。全記憶にノイズを挿入」
陸は息を呑む。
(……俺は、最初から監視されてた?)
映像が終わった瞬間、陸は膝をついた。
心臓が痛む。頭が割れそうだ。
だがそのとき、アルカが近づいた。
「大丈夫。君の中の“何か”が覚醒し始めてるだけ」
「本当の戦いはここから。君の“正体”を受け入れる準備をして」
陸は、ふらつく足で立ち上がった。
そして、口角を少しだけ上げて――いつものように皮肉気に笑った。
「なるほどな……。やっと話が“ラノベ”っぽくなってきた」




