第四十九話「オーバーアーカイブの扉」
階段を昇るたび、空間が軋む。
まるで世界そのものが拒絶しているかのようだった。
「……本当に行くんだね、陸」
アルカが背後から声をかけた。セラフィナも沈黙のまま隣を歩いている。
三人はすでに、“既知の世界”を離れ、“記録の彼岸”へと足を踏み入れようとしていた。
「引き返す気はないさ。ここまで来て逃げたら、あいつらに顔向けできねぇだろ」
陸が言ったそのときだった。
階段の先、空間の裂け目の中から何かが“現れた”。
「っ……!」
“それ”は、武器だった。
いや、武器のなれの果てとでも言うべきか。
人の意志を食らい続けたその刃は、もはや“形”を持っていなかった。
漆黒に歪んだそれは、まるで液体のように空間を這い、蠢きながら姿を変える。
【武器名:ノウウェア・コード00】
分類不能。記録外の存在。
対応中の全武器使用不能。
「は? 武器が……使えない?」
陸の手にあった“壊れた武器”――〈リコレクト〉が、ピクリとも動かない。
「これは……“概念の無効化”。おそらく、ここに存在する全ての武器の定義を――否定してる」
セラフィナが冷静に解析するが、事態は容赦なく進行していた。
黒い液体のようなコード00が、にじり寄るように三人を包囲し始める。
「チッ、なら……素手でやるしかねぇってわけか!」
陸は拳を握る。
その姿を見たとき、アルカとセラフィナもまた無言で頷いた。
「いいよ、陸。あんたがやるって言うなら、最後まで付き合う」
「記録外だろうが何だろうが――私は、仲間を失いたくない」
三人の意思がひとつに重なったその瞬間、世界が微かに震えた。
そして、“それ”は起きた。
〈リコレクト〉の刀身が光り、わずかに“言葉”を放った。
【記録改竄を検知。バックアップより一時復元を許可します】
――オーバーアーカイブ機能、解放。
「……これって……!」
「まさか、“壊れた武器”の本当の力……!」
記録の底で目覚めた“もうひとつの力”が、彼らの手に新たな運命をもたらす――!




