第三話「コード兵装《刻断者》、顕現」
俺の手の中で、“壊れたはずの刀”が変化していく。
刃は砕けていたはずだ。柄も錆び、まともな武器には到底見えなかった。
だが今、刃の先端が蒼く輝き、宙に“線”を描くようにして補完されていく。
それはまるで、失われた部分を自ら造り直しているようだった。
「これは……」
「再構築――いや、《自己補完型コード兵装》か!?」
観測者の声が、訓練室のスピーカーを通して響く。
「初期状態で顕現するなんて……通常では考えられん。やはり“それ”は特級危険武器だったか」
向かい合うフィルが、一歩だけ距離を取った。
さっきまで笑っていたその表情は、警戒と興奮に満ちていた。
「君、名前は?」
「……城戸、陸。高校二年。最近までただの平凡な人間だった」
「いや、平凡なんかじゃない。君が持ってるそれ――《刻断者》は、
過去に一度、世界を“分断”したとされる武器だよ」
「は?」
「ま、そんな昔話はあとでいいか。今は……武器同士、話し合おうじゃないか」
フィルの大剣が地をえぐる。空間が震える。
同時に俺の手の中で、ディバイダーが微かに音を立てた。
“戦う意志”を持っている。
俺の中に、“この武器の感情”のようなものが流れ込んできた。
怒り。悲しみ。渇望。そして――抗いがたい闘争の衝動。
「……だったら、俺も応えるしかないな」
構えを取った。その瞬間、体が軽くなった気がした。
フィルが先に動いた。大剣を横なぎに振る。風圧だけで壁がえぐれた。
俺はそれを、紙一重で避ける。
「おおっ、なかなかやるじゃん!」
反撃は――本能に任せた。斬る、というより、叩きつけるように振るった。
刃と刃がぶつかり、火花が走る。
衝撃が二人の間を割り裂き、空間がねじれたように歪んだ。
「なるほど……これは“ただの斬撃”じゃない」
フィルが口角を上げる。
「君の武器、“現実を断つ”性質がある。
おそらく、空間干渉型コード兵装。レベルとしては最上級、下手すれば“世界規模”だ」
「そんなの聞いてねぇよ……!」
「安心して。使い方はこれから教えてあげるさ。
でもまずは――」
フィルが構えを変えた。
「生き延びてから、ね!」
斬撃と斬撃が交差する。
蒼い軌跡が空間を走り、視界が白く染まる。
――バトルの終わりは、まだ訪れない。