第四十四話「観測の塔」
霧が晴れゆく先に、巨大な“塔”が姿を現した。
地平線まで見渡せる荒野の中央、空を突き刺すように建っている。
「……あれが“観測の塔”か」
陸はごくりと喉を鳴らした。
一見すると旧時代の通信施設のようにも見えるが、塔の周囲には奇妙な力場が揺らぎ、空間が不自然に歪んでいる。
「この世界の“本当の記録”が保管されている場所。観測者たちの記憶が集積された最深部があるわ」
セラフィナの声は固い。
「だが、近づく者を拒絶するように構築された防衛システムも厄介だ」
フォグがそう言った瞬間、塔の足元から立ち昇る“黒い光”が辺りに広がる。
「っ、これは……!」
黒い波動が地を這い、空間にひびを入れていく。
「“記録喰らい”だ……!」
アルカが叫ぶ。
「過去の記憶を破壊する、“灰”の尖兵。あれに触れたら、存在そのものが曖昧になる……!」
陸は剣を構える。
“アークブレイド”が鈍く震え、青白い刃を形づくる。
「行くぞ。ここを抜けなきゃ、何も始まらない」
先頭に立つ陸の後を、セラフィナたちが追いかける。
塔へと続く道は、まるで時空そのものがねじれた迷宮のようになっていた。
刻一刻と崩れゆく記録の世界。
“今この瞬間”を守るために、彼らは進む。
やがて塔の扉が目前に迫った時――
「待っていたぞ、“記録の運び手”たちよ」
漆黒のコートを纏い、赤い双眸を持つ少年が立ちはだかった。
「……誰だ?」
陸が剣を向けると、少年はわずかに笑う。
「俺の名は《リミット》。この世界が“二度壊れる”ときに生まれた存在だ」
「“灰”の……一員か?」
「否。俺は“修復者”だ。お前たちのような、未完成な記録を整えるための存在。つまり、お前たちが生きていることが矛盾なんだよ」
塔の扉が、リミットの背後で静かに閉じる。
「――ここを通したくないなら、やるだけだ」
陸が剣を振るう。
だがその刹那、時間が一瞬止まったように思えた。
「記録改変領域、展開」
リミットの指先が光り、世界が変質する。
「時間そのものを……操作してる!?」
フォグが叫ぶ。
「“観測の塔”の力を使っているのか……!」
「だったら、こっちは“武器の記憶”で対抗するまでだ」
陸は、震える手で剣を握りなおす。
「過去がどうだったかなんて、もうどうでもいい。ただ、今ここで誰かの“未来”を守る。……それだけだ」
剣が共鳴し、蒼く輝いた。
その光は、迷いのない意思の証だった。




