第四十二話「観測者狩り」
レティアが灰へと崩れた衝撃は、戦場全体を凍りつかせた。
アルカがその場へ駆け寄るも、手の中にはただ灰の欠片しか残っていなかった。
霧の中に、淡く漂う彼女の残響のような残滓――
「なぜ……レティアだけが狙われた……?」
フォグが静かに言う。
「“観測者”だからだ」
陸が眉をひそめる。
「観測者……?」
「君たち武器使いとは異なる存在だ。我々観測者は“異能戦争の記録”と“継承”を司る……いわば裏世界の歴史そのものを繋ぐ者」
「その“観測者”を……消しにきたってことか」
フォグは無言で頷く。
「記録が消えれば、世界の連続性が断たれる。秩序は崩れ、戦いは終わらなくなる。“誰が何をしたか”を知られなければ、正義も復讐も意味を持たなくなる」
「つまり……“無限の殺し合い”の始まりだな」
アルカが唇を噛む。
「……こんなやり方、誰が得をするんだよ……!」
そのときだった。
“灰の侵攻者”が再び動き出す。
まるで目的を遂げた後の“次の標的”を選ぶように、音もなく霧をかき分けて近づいてくる。
「次は、俺たちか……」
陸は剣を構える。
だが、その瞬間。
「その武器では、勝てない」
どこか別の声が割り込んできた。
少女の声――高く、響き、どこかで聞いたような……
霧の向こう、風を切って飛来した“杭”が、侵攻者の黒槌をかすめて飛び去る。
爆発。
爆煙の向こうから現れたのは、ひとりの少女だった。
右手には十字型の巨大な杭打ち銃。
左目にバイザーを装着した、軍服のような衣装の少女。
「……あんた、生きてたのかよ」
陸の目が見開く。
少女は――
かつて“処分されたはずの異能兵器保持者”の一人、《ハザードクラス・セラフィナ》。
「お前……!」
アルカが警戒を強める。
「敵じゃないよ。少なくとも今は。あたしにも……目的があるから」
彼女が銃を構える。
杭が空中で分離し、四方向に浮かぶ。各々が電磁力で制御されている。
「“灰”は、私の記憶を消した。だから取り返す。戦いの意味を、もう一度――」
侵攻者が突撃してくる。
だが今度は、セラフィナの杭がそれを受け止めた。
空間が揺れ、重力が歪む。
(この力……“重圧制御”!?)
「陸、今のうちに“壊れた剣”を……!」
フォグの言葉に反応して、剣が淡く発光し始める。
鈍くくすんだ破片だったはずの刀身に、わずかに“青白い炎”が灯った。
「……目覚めるのか、お前も」
陸の背後で、“何か”が覚醒する音がした。




