第四十一話「灰の侵攻者」
“それ”は、音もなく現れた。
空間が裂け、灰色の霧があたりを包み込む。
まるで世界そのものが“腐蝕”していくような感覚――。
「くそっ、これは……!」
陸が思わず口元を覆った。
空気が重い。視界が歪む。皮膚に痺れるような異常を感じる。
フォグが静かに言う。
「“灰の侵攻者”……」
「なんだそいつは」
「過去に一度だけ現れた。“異能兵器の暴走体”。感情と記憶を失い、ただ命令の断片だけを繰り返す存在だ」
アルカの表情が珍しく険しい。
「“あれ”は、滅んだはずじゃなかったのか?」
「そうだ。だから、今ここにいるのは“新たな意思”に従った個体……あるいは、“復元”された何かだ」
霧の中、シルエットがゆっくりと浮かび上がる。
それは人間の形をしていた。だが、人ではなかった。
全身が灰色の金属で覆われ、顔すら識別できない。
ただ、右腕に宿る“巨大な黒槌”だけが、不気味な存在感を放っていた。
「……また武器か」
陸が静かに剣を抜く。
だが、“壊れた剣”は何かを拒むように、淡く軋んだ音を立てる。
(なんだ……こいつにだけは反応が鈍い?)
「接触戦は避けろ!」
レティアが叫ぶ。
「“あれ”は触れた物を灰に還す!空気を媒介に、周囲を腐蝕する能力を持つわ!」
「だったら……!」
陸が地を蹴る。
霧の中に突っ込む形で、斬撃を放つ。
“壊れた剣”から放たれた斬光が、敵の胸部を貫いた――かに見えた。
が。
「……効いてねえ?」
敵は、確かに斬られていた。
しかし、傷口は即座に“灰”へと変わり、その灰が再び肉体へと“再構築”される。
「再生持ちかよ……!」
アルカが続けて“アーキタイプ”を振るう。
彼の武器は“根源属性”――変化と破壊の両方を内包している。
それでも――
「……再生が、早すぎる」
フォグが低く呟く。
「陸。このままでは全滅する。後退を――」
「いや、あいつ……“何か”を探してる」
陸の視線が、侵攻者の頭上に向いた。
そこには、目に見えない何か――“索敵波”のようなものが広がっていた。
(……誰かを探してる?)
そう思った瞬間、侵攻者の“黒槌”が轟音を立てて振り下ろされた。
――標的は、陸ではなかった。
観測者の一人、レティアの心臓を、貫くように。
「っ……!」
レティアの身体が吹き飛ぶ。
血ではない、“光の粒”が弾けた。
「レティアァアアッ!」
アルカが叫ぶ――が、遅い。
彼女の身体は、地面に触れた瞬間、“灰”へと崩れた。
(そんな……こんな一撃で――!?)
陸の脳裏に、ひとつの疑問がよぎる。
なぜ、“レティア”だけが狙われたのか?
この“灰の侵攻者”の本当の目的は――?




