第四十話「始原の武器《アーキタイプ》」
「“始原の武器”だと?」
陸の声が、冷たく響いた。
白髪の少年――その名をアルカという――は、ゆっくりと頷いた。
彼が握るのは、「アーキタイプ」と呼ばれる異形の槍。
その形状は定まらず、まるで“存在の起源”そのものを模していた。
「我々観測者は、“歴史の再演”を許されている」
「意味が分からん」
「つまり――“すべての武器の原型”を、実在させることができる」
空間がうねる。
アルカの槍が、一瞬、“剣”にも“斧”にも“弓”にも見えた。
それは、武器のイデア(概念)そのもの。
「君の“壊れた剣”もまた、その系譜にある」
「……じゃあ、お前らは敵か?」
「違う。少なくとも、今の時点では」
アルカの後ろにいた二人の観測者――
長身の女性“レティア”と、仮面をつけた男“フォグ”が、ゆっくりと距離を詰めてくる。
レティアは、しなやかな金属鞭を腰に携え、言った。
「私たちの目的は、“世界の観測”。それ以上でも、それ以下でもないわ」
フォグも低い声で続ける。
「お前が“あの剣”を持った理由。それを、観測する義務がある」
陸は目を細めた。
「俺の許可なく?」
「すでに、君は“特異点”。許可など存在しない」
沈黙が流れる。
陸の右手には、“壊れた剣”が浮かび上がっていた。
それはまるで、観測者たちに敵意を向けているようでもあった。
「一つ、訊いておく」
「なんだ?」
「この剣……“世界を壊す”って言われたけど、それは本当なのか?」
レティアが表情を曇らせた。
「“世界”という言葉の定義次第ね」
「……は?」
「君が“守りたい世界”と、私たちが言う“観測世界”は、おそらく一致しない」
アルカが最後に口を開いた。
「君が歩く道次第で、この世界は“正史”になるか、“断絶”するかが決まる。だから、俺たちは君を――」
――ガン。
不意に、“壊れた剣”が震えた。
何かに反応したように、青黒い光が刃から弾ける。
「……またか」
陸が剣を握り直す。
次の瞬間、遠くから“雷鳴のような振動”が響いた。
観測者たちの視線が、北の空に集まる。
「“あれ”は……」
「封鎖区域“Y”が……開いた……?」
「違う、これは――“意図された侵入”だ」
空が裂ける。
新たな敵が、姿を見せようとしていた。




