第二話「訓練施設(コードベース)と第一の試練」
「立て。案内する」
銀髪の男――“観測者”を名乗ったその人物は、無言でドアを開けた。
俺は言われるがままに、重たい体をベッドから引き剥がす。まるで体に砂でも詰められたみたいだ。
廊下に出ると、そこはまるで廃工場を改装したような構造だった。
無数のモニターが壁に埋め込まれ、所々には傷のついた訓練用のダミー。
天井から吊るされた電灯が、青白くフロア全体を照らしている。
「ここは《コードベース》。コード兵装使いの訓練場であり、検証場でもある」
「まるで軍の地下施設だな……」
「似たようなもんだ。ここにいるのは皆、何かしらの“武器”と契約した者どもだ。
選ばれた者には力が与えられるが、同時に試される。お前も例外じゃない」
歩きながら、男は一つの自動ドアの前で立ち止まった。
扉の上には《第七訓練区画:初期適合者用》という文字。
「入れ。ここで適性を計る。死ぬ気でやれ」
「いやいや、いきなり!?」
「“壊れた武器”と契約した者は、常に監視対象だ。それだけ危険なんだよ。
本当に使いこなせるのか。今ここで証明してみせろ」
強引に押し出された先は、まるでドーム型の体育館のような訓練空間だった。
そして、そこに待っていたのは――
「やぁ、ようこそ新人くん」
金髪の青年。少年のような笑みを浮かべていたが、その背にある大剣は異様に禍々しい。
「俺はフィル。コード兵装の使い手。今日はキミの“対戦相手”だ」
「対戦……? いやちょっと待て、武器も使えない素人を相手に本気でやるのかよ!?」
「“武器”はお前を選んだ。それはすでに、逃げる理由にならない」
観測者が背後から言い放ったその瞬間、フィルが笑いながら大剣を振りかぶった。
「死なない程度にね。はじめよっか、新人くん」
刹那、爆風のような圧が迫る。
俺は反射的に腰にあるそれ――《刻断者》を抜いていた。
使い方も知らない。けど、体が勝手に動いた。
金属と金属がぶつかる音。刃と刃の衝突。
衝撃で床がひび割れ、視界が歪む。
「へぇ……本当に、壊れた武器か。なかなかヤバいのを手に入れたね」
フィルの笑みが変わった。目が、本気の殺気を帯びている。
やばい。本当に死ぬかもしれない――。
だけどその瞬間、俺の脳内に誰かの“声”が響いた。
『戦え、主。お前には、それだけの理由がある』
それは“あの夜”に聞いた声。壊れた刀の奥から聞こえた、誰かの“意志”。
「……ふざけんなよ、もう何が何だかわかんねえよ」
俺はただ叫んだ。訳もなく。感情だけで。
「でも――」
「死ぬよりは、マシだろ!」
刃が震え、俺の中の何かが弾けた。
次の瞬間、ディバイダーの刃が蒼い光を帯び、
まるで“欠けた”はずの部分を補うように形を変えていく。
観測者の目が見開かれる。
「“再構築”……だと!?」