第三十話「調律者ユナ=最初の盟友」
「調律者――?」
陸は思わず聞き返した。
少女はうなずき、足元の歪んだ重力空間を軽やかに歩く。
「この世界には、壊れた“可能性”が溢れてる。
武器に、魂に、人の願いに。私たちはそれを整える役目」
ユナはそう言いながら、八枚の刃を背に舞わせた。
まるで天使か、あるいは――処刑者のように。
「クロム。あなたの異能はすでに制御域を逸脱している。これ以上の拡大は、“因果汚染”にあたる」
「知ったことか。俺は“理”の外から来た存在だ。
ルールに縛られる気はない」
クロムが第ニの鉄槌を振りかぶると、空間が潰れたように沈み込む。
だが次の瞬間、ユナの刃がひとつ、光の軌跡を描いて宙を走った。
《調律コードNo.27・重力偏位式“リセット”》
《相殺成功》
「なっ……」
クロムの一撃が、虚空に吸い込まれた。
何かが“書き換え”られたような感覚に、陸の背筋が粟立つ。
「……お前の武器も、“壊れてる”のか」
「いいえ。私のは“整ってる”の」
ユナが静かに言った。
「君の剣も、彼の槌も、全部“歪んだまま”暴れている。
だからこそ、調律が必要なの。壊れた可能性を、正しい場所に戻すために」
クロムは数秒の沈黙の後、重く笑った。
「……今は引くさ。“継承者”も、“調律者”も、まだ未熟だ。
だが、次に会う時は――本気で殺し合おう」
そして、空間ごとその姿を消した。
重力の歪みが消え、風が流れ込んでくる。
陸は息をつきながら、ユナに視線を向けた。
「……助けてくれて、ありがとな」
「お礼はいいよ。その代わり――これから君には知ってもらう。
この武器戦争の、本当の始まりを」
少女の瞳に、光が宿る。
「君は“継承者”に選ばれた。つまり――世界の再構築に関わる人間ってこと」
「はぁ……マジかよ」
陸は頭をかきながら、空を見上げた。
青い空の、そのずっと上――
まだ知らぬ“武器の世界”が、彼を待っている。




