第二十一話「記録の書き手、そして管理者」
VANTの姿が歪んで見えたのは、空間そのものが“情報の奔流”に晒されていたからだった。
「……ここは……?」
気づけば陸の周囲は、白い無機質な空間に変わっていた。
空も地面もない。あるのは無限に広がる“記録”だけ。
幾千もの文字列が、幾億の記憶が、浮遊している。
人々の人生、都市の出来事、戦争の記録、そして“消されたはずの真実”――
《ここが、“記録の源”》
声が響いた。VANTではない。
どこか女性的で、穏やかだが底知れぬ威圧感を孕んだ声。
「誰だ……?」
《私は“管理者”のひとり。
この世界の因果と歴史の流れを、正しい形に“編集”する者》
その言葉の意味を、陸はすぐに理解できなかった。
「歴史を……編集?」
《そう。この世界の人間たちは、時に耐えられない現実を迎える。
だから私たちは“記録”を管理し、時には改竄し、破滅を避けるよう書き換える。》
《君が触れた“壊れた武器”は、かつての記録の断片だ。
本来なら消されたはずの未来の一部。
君はそれを拾い、繋げてしまった》
「つまり……俺がやってるのは、“消された未来”を引き戻すってことか」
《正確には、記録に空いた“穴”を埋めようとしている。君の意思で、君の選択で》
そこに、VANTの姿が浮かび上がった。
「この空間に入ってくるとはな。……やはり、お前は記録の書き手だったか」
「書き手?」
《武器を媒介に、消えた記録を“再構築”できる存在。
君のような人間は、極めて稀。
だが同時に、“危険”でもある》
VANTは構えを取った。
「もう一度問おう、陸。お前は、世界の記録を守るか? それとも書き換えるか?」
陸の手の中にある黒刃が、再び脈打つ。
記録と記憶が混じり合い、視界が揺れる。
「……俺は、“俺の記憶”を信じる。
たとえ世界が嘘を望んでも、本当をなかったことにするなんて、俺は嫌だ」
刹那、空間が割れた。
幾千もの記録の欠片が、刃となって降り注ぐ。
「やってみろ、“書き手”陸。
この戦いに勝てたとき、お前には真の記録が見えるだろう」




