プロローグ:壊れた武器が呼ぶ声(後編)
赤い光が刀身を包み、空気が震える。
欠けていた刃は、音を立てて再構成され、まるで獣の爪のような不規則な形状へと変化した。
同時に、俺の視界が一瞬にして研ぎ澄まされる。音、匂い、気配――
すべてが、異様なほどクリアに感じられる。
『能力起動――"刻断"。対象の存在構造を理解・断絶せよ』
「何言ってんだ……!」
頭の中で声が続く。理解が追いつかない。けど、
体のどこか、深いところで“分かって”いた。
あのスーツの男が、もう一度銃を構えた。
その瞬間、勝手に体が動いた。
パンッ!
銃声より早く、俺は地を蹴り、奴との距離を一気に詰める。
重力が軽い。体が異様に軽く感じる。
「テメェ、やりやがったな……!」
スーツの男が慌ててナイフを構えた。
だが――俺の刀がそれを一閃した。
ギィィィン!!
火花が飛ぶ。刃と刃がぶつかっただけのはずなのに、
男のナイフは“軋みを上げて崩壊した”。
「なっ……!」
俺の武器が、ただの斬撃じゃない――そう理解するより早く、
刀の先端が男の胸元へ触れる。
「悪い、俺は“力を求めない”とは言えなかったみたいなんだよな」
――ズバァッ。
刃は男の身体を斬り裂くのではなく、“分解”した。
まるでそこに最初から何もなかったかのように、男の上半身が霧のように消えた。
俺の手が震えていた。現実感なんてない。
目の前の惨劇を、ただ受け入れるしかなかった。
『戦闘終了。第一段階、適合確認』
「おい……説明しろ……何なんだこれは……! この武器、今の能力……あの男……!」
『貴様は“武器使い(アームド)”として認定された。』
『ここから先は、もう“日常”には戻れない。』
「は……? 待てって、そんなの――」
『この力は、代償だ。何かを手にすれば、何かを失う。』
そう言った瞬間、俺の視界が急に暗転した。
地面が傾く。意識が落ちる。
「ちょっ……と、待て、俺……明日、数学の……小テス……ト……が……」
俺はそのまま、意識を手放した。
――世界の裏では、既に戦争が始まっていた。