第十五話「紋章と偽りの使徒たち」
コードネーム《KAZE》《HAZE》――
記録者として紋章を刻まれたその瞬間から、陸と志乃の中で何かが変わった。
それは能力でも力でもない。
“否応なくこの戦いに関わる運命”を、その皮膚の内側に焼き付けられた感覚だった。
「……風の紋章、か」
陸の手首に浮かぶ青銀の模様が、呼吸に合わせて脈打つ。
「こっちは……霞? 名前負けしないようにしないとね」
志乃も、自分の左肩に浮かぶ淡紅の紋様を指先でなぞる。
そんな二人の前に現れたのは、全身を白いスーツとマスクで覆った三人組だった。
その姿はまるで“祭壇の使者”のように神聖で、同時に不気味さを孕んでいた。
「記録されし者よ、我らは“使徒”」
先頭の男が名乗ると同時に、空気が凍るような圧力が二人を包んだ。
「使徒……また新しい敵かよ」
陸が警戒しながら武器を構えると、男は首を横に振った。
「違う。我らは敵ではない。むしろ“選ばれし者”を回収しに来た」
「回収……? 何それ、実験体扱い?」
志乃の言葉に、使徒のひとりが一歩踏み出す。
「“記録”された存在は、必ず“中枢”に接続されねばならぬ。
さもなくば“世界の欠損”となる。君たちは選ばれたのだ――この世界の“修復”のために」
「そんなの勝手に決めるな」
陸の言葉と同時に、空気が破裂したような音が響いた。
《ズバン!》
“刻断者”の一閃が空を裂き、使徒の一人の仮面を砕く。
だがその顔には、表情というものがまったく存在しなかった。
「……なにこれ、人間じゃない」
志乃が呟いた直後、その“顔のない存在”がゆっくりと動き出す。
「我らは《模倣体》――人の姿を借りた、記録の器」
次の瞬間、空間が崩れるようにねじ曲がり、
教室がまるごと、異次元の戦場へと変貌していった。
――戦闘開始。
使徒の一体が腕から刃を生み出し、雷のような速さで志乃に迫る。
だが彼女は一歩引いて、空気を撫でるように構えを取る。
「風は……乱して、削ぐ!」
《HAZE》の異能――“風を視認できないベクトルで操る”力が炸裂。
見えない斬撃が縦横に走り、模倣体の動きを削ぎ落とす。
一方、陸の《KAZE》は――
一振りで“空間の座標”ごと切断する、“瞬断”の一閃。
「見せてやるよ。これが、“壊れた武器”の本気だ」
再び空が裂け、使徒たちのうち一体が跡形もなく消滅した。
「情報収集、完了。記録者《KAZE》《HAZE》は、確保対象より除外」
残る使徒がそう呟くと、空間が収束し、彼らは姿を消した。
嵐のような戦闘のあと、教室だけが元通りに戻っていた。
「なあ、志乃」
「なに?」
「やっぱこの武器――ただの武器じゃねぇ。
きっと、もっと深い“意味”がある」
「だね。だって、私たちを“記録者”なんて呼ぶくらいだもん」
二人は無言で、手の紋章を見つめた。
それは――“選ばれた証”であり、
“代償”でもあった。




