第十一話「選ばれなかった少女と、眠る武器」
「――志乃?」
翌日、城戸陸は、放課後の教室で思わず声を漏らした。
誰もいないはずの教室に、彼女――**藤咲 志乃**がぽつんと一人、
窓際の席に座っていたからだ。
いつもは空気のように静かで目立たない彼女。
陸自身も、志乃とはほとんど会話したことがなかった。
だが今日の彼女は、何かが違っていた。
「……ねぇ、城戸くん。君、最近……“変わった”よね」
「……!」
「気配が。眼が。“裏”のものに触れた人の匂いがする」
陸は無意識にポケットの中の《刻断者》に手を伸ばしていた。
それを見て、志乃は小さく笑う。
「安心して。私は戦うつもりはないよ。
むしろ、少しだけ……うらやましいって思ってた」
彼女が机に置いたのは、封印された状態の“金属の腕輪”だった。
無骨で鈍く黒光りし、まるで枷のようにも見える。
「それは……武器か?」
「ううん、“なりそこね”の方。選ばれなかった、もう動かない武器」
彼女は語る。
かつて、自分も“裏の世界”に選ばれかけたことがあること。
だが、武器に拒まれ、適合率が低く、破棄された候補生に過ぎないこと。
「でも、まだ夢を見てるの。もし、もう一度この武器が目を覚ましたら、って。
……バカみたいでしょ?」
「……いや」
陸は静かに答えた。
「バカなのは、この世界の方だ。誰かを選んだり、拒んだりして……
都合のいい歯車しか回さない」
沈黙が流れた後、志乃がふっと笑った。
「じゃあ、次にその“都合”を壊すのは……君なの?」
「どうだろな。そもそも俺、そんなにやる気ねぇし。
ただ……壊れたものには、ちょっとだけ親近感があるんだ」
彼がポケットから少しだけ覗かせた《刻断者》。
志乃の目に、一瞬、懐かしさのような色が宿った。
そして次の瞬間――
金属の腕輪が、かすかに震えた。
「……え?」
志乃が驚きの声を上げた瞬間、校舎の外からけたたましい警報音が鳴り響いた。
《封鎖警告:裏世界反応、校区D-13にて発生。すべての武器適合者は即時出動せよ》
……次の戦いが、始まろうとしていた。




