第十話「偽りの観測者(ファントム・ウォッチャー)」
深夜の校舎裏、戦いの余熱がまだ地面に残っていた。
影の襲撃者は倒れ、手足を拘束して気絶している。
俺――城戸陸は、その傍で息を整えていた。
「……あれが、裏の世界で“中級”レベルってのかよ。冗談じゃねえ……」
《刻断者》は黙っていた。戦闘直後で沈黙モードに入ったらしい。
と、そんな時だった。
――コツ、コツ。
誰かの足音が、暗闇の奥から響いてくる。
軽やかだが、妙に規則的。まるで意図的に“存在を知らせている”ような音。
「……!」
俺は再び構えた。戦う準備は――もう、できていた。
だがその人物は、両手を挙げて歩み寄ってきた。
「ノー・ウェポン、ノー・エネミー。落ち着いて。僕は敵じゃないよ、少なくとも今は」
月明かりに照らされたその顔は、俺と同じくらいの年齢に見えた。
だが、ただの高校生じゃない。
瞳が――異常だった。淡い光を宿した、まるで“記録装置”のような冷たい目。
「……誰だよ、お前」
「僕のコードネームは《ファントム・ウォッチャー》。観測者だよ。
君と君の武器《刻断者》を、ずっと“監視”していた側の人間さ」
「……は?」
「君がまだ知らないことが、あまりに多すぎる。
でも、教えるには時が早い。ただ、これだけは言っておく」
彼はポケットから一枚の古びた写真を取り出した。
そこには、俺が持っている“破片のような武器”と、
それと“そっくりな形”の――完全な状態の刀が写っていた。
「君の武器は、かつて“世界を滅ぼしかけた”存在と同じ系譜にある。
《刻断者》は、選ばれたんじゃない。……封印を、解かれたんだよ」
「…………」
「それと……次は、“君の味方のふりをした敵”が現れる。油断しないように」
言い残すと、彼は歩いてそのまま夜の闇に消えた。
足音さえも、もう聞こえなかった。
ただ、風だけが、重く、冷たく吹いていた。
俺の手の中で、沈黙していたはずの《刻断者》が、
小さく、かすかに、震えていた。




