第九話「影の襲撃者(シャドウ・レイダー)」
――深夜の学園。
校舎の窓から漏れるわずかな非常灯の光だけが、人工的な静けさの中に漂っていた。
その静寂を破ったのは、金属と金属が擦れるような、冷たく硬い音。
「……ターゲット、確認」
黒いフードの影が、屋上からひらりと飛び降りる。
地上に着地した瞬間、空気がひずんだ。
そして、何かが“瞬間的に”この世界から欠落したような、妙な感覚が走る。
「気配が、消えた……?」
俺――城戸陸は、夜の自販機前で缶コーヒーを片手に立ち尽くしていた。
理由はない。ただ眠れなかった。それだけだった。
なのに――「そいつ」は、俺を狙って現れた。
「コードネーム《シャドウ・レイダー》。任務:対象=城戸陸の確保。
理由:所有武器《刻断者》の異常覚醒と起動率の逸脱」
「また俺かよ……!」
俺はコーヒー缶を叩き落とし、懐から“破片のような刃”を取り出す。
小さな破片。けれど、こいつが俺に力をくれる。
《再起動:刻断者》
刃が閃き、空中に“形”を持って具現化されていく。
そして俺の右手には、昨日よりも少しだけ重たく、鋭くなった《武器》が宿った。
「応戦モード:第三階層《残響》に移行」
刃から声が聞こえた。意思を持つ武器の、共鳴だ。
「なるほど、噂通りだな」
襲撃者は、腰のあたりに吊るした二丁の短剣を抜く。
刃の表面に、歪んだ赤黒いオーラがまとわりついていた。
「念のため警告する。君の命は奪わない。“封印”するだけだ」
「それ、警告じゃなくて宣戦布告だろ」
言い終えるより早く、影のような身のこなしで襲撃者が飛び込んでくる。
(やば……速ッ!)
だが、反応できた。
《刻断者》の刃が空を切る。わずかに間合いがずれたことで、短剣は俺の頬をかすめるだけで済んだ。
「……思ってたより、やるじゃないか」
「俺も。お前、思ってたよりうざいな」
足音が交差し、火花が弾ける。
夜の学園で始まった一対一の暗闘。
だがそれは、裏世界の“より深い闇”への入口に過ぎなかった――。