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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

鋼ではない心

作者: Kikyo
掲載日:2025/06/30

消えない記憶って、あると思う。

単なる過去の断片じゃなくて、今の自分を形作っている、そんな大事な記憶。

…あの日のことは、今でもはっきり覚えてる。

母さんが旅立った日。

そして俺が、突然ひとりぼっちになった日。


時間が全てを癒すと思っていた。

でも、10年経っても、最後の瞬間に見た母の目は忘れられない。

弱くて、でも強がっていた。

母はいつもそうだった。痛みを隠して、俺に心配させなかった。

だが結局、父が戻るのを待てずに逝ってしまった。


父は科学者だった。

俺が6歳の時、全ての財産と希望を持って国家プロジェクトに参加すると言い、家を出た。

「人類の未来を守るためだ」と言って。

でも戻らなかった。

母にも俺にも、何の連絡もなかった。


その離別は、もともと体が弱かった母にとって致命的だった。

数ヶ月後、寒い狭い部屋で、薬もなく、誰もいない中で母は倒れた。

俺だけがいた。まだ死の意味も分からない年齢で。


誰にも言わなかった。

強かったからじゃない。

怖かったんだ。

連れていかれるのが怖くて、母の匂いが残る家から離れたくなかった。

大人たちの同情の目も嫌だった。


だから俺は静かに暮らした。

学校にも行かず、誰とも関わらず、ただ玄関の階段に座って空を見上げ、風の音や落ち葉の音を聞いていた。


――そんなある日の夕方、太陽が沈みかけていた。


「お兄ちゃん……私、ママと迷子になっちゃったの。」


顔を上げると、小さな女の子がいた。

4、5歳くらいで、ツインテールの髪。泣きそうな目を必死にこらえていた。

片腕のない人形を抱えていた。


俺は戸惑い、何も言えなかった。

だが彼女は隣に座って、公園で迷子になった話を始めた。

小さくても肝が据わっている子だった。


俺は彼女を交番に連れて行った。

やがて母親が駆けつけて彼女を抱きしめた。

俺は帰ろうとしたが、小さな手が俺の服を掴んだ。


「お兄ちゃん、名前は?」


「……ハガ。」


「私、ナズミ!また遊びに来るね!」


俺はうなずいた。

まさか本当に来るとは思わなかった。


だが翌日も、その翌日も、彼女は来た。

そして毎日。


ナズミが小学校に入る頃、俺が学校に行っていないことに気づいた。

そして彼女の中で大きな計画が生まれた。


「じゃあ、ハガお兄ちゃん、明日から私が勉強教えてあげる!」


俺は驚いた。

自分のことはほとんど話していなかったのに。

ナズミと仲良くなるほど、捨てられる恐怖が強まった。

だが彼女は毎日、ノートやペン、お菓子を持ってきた。

「字が読めないとダメだよ!」と言って、ひらがなから教えてくれた。

彼女は俺の小さな先生になった。


彼女は年下なのに、とても大人びていた。

俺の両親のことも聞かなかった。

ただそばにいてくれた。


その日々は幸せだった。


そして俺は決めた。

仕事を探そうと。

生きていくために。

ナズミの隣にい続けるために。


だが俺はまだ7歳。

小さくてドアノブにも届かない。

どこに行っても笑われた。


「子供なのに働くの?」


「学校はどうしたの?」


俺は答えなかった。

親がいないことがばれたら、施設に連れて行かれると思った。


何度も失敗して、暗い家に帰った。

そこには母が待っている気がした。


ある日、薄暗くなった頃、古い線路沿いの修理工場の前で立ち止まった。

油まみれの服を着た老人が車の下にいた。

俺は声をかけられなかった。


「仕事探してるのか?」と無愛想に言われた。


俺は返事を飲み込んだ。


「……うん。」


老人は俺をじっと見て言った。


「親はどこだ? こんな子供を働かせてるのは誰だ? 本当のことを言え。警察を呼ぶぞ。」


限界だった。俺は泣いた。


「誰もいない……母は死んだし、父もいない……どこにも行きたくない! ここにいたいだけだ!」


老人はしばらく黙って見ていたが、やがて手を拭き、工場のドアを開けた。


「入れ。手を洗え。それから道具の拭き方を教えてやる。」


それから俺はタカシの工場で働き始めた。

夕方にはナズミが来て、学校の勉強や宿題を教えてくれた。


忘れられない日々。

そして、俺は知っている。

どんなに未来が暗くても——

俺の幼少期に光をくれたナズミに、感謝してもしきれない。



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