坑道の心臓と語られぬ真実
空洞の奥へと続く道は、奇妙に滑らかな石のアーチで構成されていた。
「なんかもう……ここ、坑道じゃなくなってない?」
レイラが周囲を見回しながらつぶやく。
「……坑道の空気と、まるで違う……」
レイラが小声で言う。
「ここだけ、時間が止まってるみたい」
レイラたちが一歩、また一歩と進むたびに、足音が吸い込まれるように消えていく。
「それに……音が、反響しない……?」
ミネットが不安げに耳を澄ます。
「空間自体が魔力で干渉されているわね。普通の構造じゃないわ」
フィオナが壁に手を当てると、石材の隙間から淡く青い光がにじんだ。
「空間そのものが、記憶の残滓で編み込まれている……そんな感触だわ」
その先に現れたのは──まるで“聖堂”のような広間だった。
中央には、壊れかけた祭壇。
その奥には巨大な石碑が立ち、かつては魔法陣らしきものが床一面に刻まれていた。
「これは……封印術の痕跡かもしれません」
カシムが眉をひそめる。
「この“記憶干渉鉱”……まさか、実在していたとはね。文献の中でも、扱いは禁忌。思念や記憶に反応して空間を変質させる……魔術とも科学ともつかない代物よ」
カシムが小さく息を呑む
「ただの坑道じゃなかったんだな……」
トールが呟いたそのとき、パメラが散らばる石板のひとつを拾い上げた。
「文字、あるけど……これ、読めないわね。誰か訳して」
「見せて」
リリィが石碑をなぞりながら受け取り、数秒後に眉をひそめる。
「これ……連邦の文字体系にも似てるけど、どこか違う。もっと、古い……」
「……封印対象:記憶干渉鉱【分類・禁制/古代型】」
「記憶……干渉……?」
レイラが小さく呟いたその瞬間、
背後でゴウン……と低い音が鳴り、部屋の空気が微かに歪んだ。
「魔力が……残ってる」
フィオナが周囲を警戒する。
レイラはふと、祭壇の脇に落ちていた欠けた水晶を手に取った。
──そして、見た。
あの時と同じ。
光の中に、幼い少女が暗い倉庫の中で泣いている映像。
──幼い少女の泣き声が、胸の奥に刺さった。
(……あのとき、私も……)
レイラの視界に、かすかに自分自身の記憶が重なった。
「……たすけて……さむいよ……」
「っ……!」
レイラは思わず目を伏せ、額を押さえた。
けれど──
「私は……レイラよ。誰でもない、私」
目を開いた彼女の表情には、わずかな決意が宿っていた。
「社長?」
ミネットがそっと声をかける。
「ううん、なんでもない。さ、宝探し再開しましょ!」
「いやもうその“宝”、絶対ろくでもないやつでしょ!」
パメラのツッコミが響いたとき──
石碑の魔法陣が、静かに淡く光った。
「……封印、解除されていく……?」
カシムが眉をひそめる。
「退くぞ。崩れるかもしれない」
ガルドの判断で、一行は広間を後にする。
──背後で、静かに石が崩れ落ちた。