封鎖坑道への突入
朝の光が港を照らす中、《ラ・ミスティーク》号の甲板に、いつものような(いや、いつも以上に)騒がしい声が響き渡った。
「完全武装したぞーーーっ!!」
レイラが謎の気合いと共に飛び出してきた。
──盾、剣、ナイフ束、羽根飾りヘルメット、そして腰にはギッチギチに詰められたポーチ類。
ぱっと見、完全に“これから戦争に行きます”仕様。
「……どこに突撃するつもりなの、社長」
パメラが呆れたように眉をひそめた。
「だって封鎖坑道だよ!? きっとトラップとか、ワナとか、お宝の守護者とか、冒険譚のお約束がいっぱいあるに決まってるもん!」
「社長の脳内冒険譚基準で語るのやめろ!!」
甲板にいたクルーたちも、それぞれ準備を整えていた。
荷物をまとめるリオ、武器を点検するトール、魔法具を仕込むフィオナ──
みんな慣れた手つきだが、レイラの装備だけは明らかに浮いていた。
「じゃあ、いっきまーす!!」
勇ましく叫びながら、レイラは飛び降り──港の段差に引っかかって盛大に転んだ。
「……はぁ。先が思いやられるわ」
パメラが手を差し伸べながらため息をついた。
港に降り立つと、町の住民たちが遠巻きにヒソヒソと囁き合っていた。
「おい、あいつら……封鎖坑道に行く気か?」
「マジで? バカじゃねぇの?」
「南無……いや、まだ早いか」
ざわつく空気の中、レイラはどこ吹く風で胸を張る。
「ふっふっふ、見てなさい島民諸君! 私たちは無事に帰ってくるとも!」
「いや、無事どころか、借金増やして帰りそうなんだけど」
リリィがくすくす笑いながら紅茶をすする。
森へと向かう細道は、思った以上に荒れていた。
崩れた道標、折れた木橋、獣の足跡。
「うわぁ……これ、絶対ロクなもんじゃないね」
レイラが苦笑しながらつぶやく。
「うん、普通なら引き返すレベルだわね」
パメラも真顔で答える。
「まぁ、普通じゃないのがうちの社長だけどね」
リリィがさらっと毒を吐いた。
しばらく進むと、視界が開けた。
そこにあったのは、
朽ちた木材で封鎖された坑道の入り口。
結界札がぼろぼろになりながらも、かろうじて残っている。
地面には壊れたスコップ、割れたヘルメットが散乱し、奥からは……ゴォォォン……と不気味な鐘の音。
「……やっぱり帰ろっか?」
ミネットがレイラの背中に隠れながら呟く。
「だ、大丈夫! 冒険ってのは、こういう怖いのを乗り越えてこそなんだからっ!」
レイラは震える拳を掲げた。
「まぁ、社長が死んだら借金の方に船を売るだけだから、問題ないけどねぇ」
リリィがにこにこととんでもないことを言う。
「問題しかないよ!!!」
レイラの絶叫が、坑道前に木霊した。
「封鎖……大したことないね」
リリィが封印札をぺりっと剥がし、
カシムがあっという間に錠前を開ける。
「……なんか、ちょっと拍子抜け」
「これからが本番だろうさ」
ガルドが短く言った。
暗く口を開けた坑道の奥へ──
レイラたちは、足を踏み入れていく。
封鎖された坑道の奥へと、レイラたちは慎重に進んでいった。
壁に打ち込まれた古びた支柱は今にも崩れそうで、天井からは時折、ぽた……ぽた……と水滴が落ちる音が響く。
「うわぁ……想像以上にボロいな……」
レイラが辺りを見渡しながら苦笑いした。
「それでも、誰かが最近通った跡があるな」
ガルドが地面を指差す。薄く残った足跡──しかし、それはレイラたちのものとは違う向きに、奥へ向かって続いていた。
「誰か、先にいったのかしら……?」
フィオナが警戒するように杖を握りしめる。
そのときだった。
──コツ、コツ、コツ……。
微かに、後ろから足音がした。
レイラたちは一斉に振り返る。
だが、そこには誰もいない。
「……いま、誰か歩いてなかった?」
ミネットが小さくつぶやく。
「うん、たしかに聞こえた……気がする……」
パメラが眉をひそめる。
「ふふ、幻聴じゃないかな〜?」
リリィが飄々と笑うが、手はしっかり腰の短剣にかかっている。
「ま、まぁ !幻聴でも幽霊でも、負けないもんねっ!」
レイラは空元気で拳を握る。
「──いざとなったら、宝石で身を守ればいいし!!」
「どういう理屈だよ……」
パメラが頭を抱えたそのとき、
坑道の奥から、またしても──ゴォォォン……と、低い鐘の音が鳴り響いた。
「ほ、ほら!! これ、完全に“お宝守護イベント”のフラグだよ!!!」
レイラがなぜかテンションを上げる。
「前向きすぎるにもほどがあるわよ……!」
フィオナが小さくため息をついた。
薄暗い坑道の奥。
異様な空気が、じわりじわりとレイラたちを飲み込んでいく。
──だが、それでも彼女たちは、引き返さなかった。
「いこっか!」
レイラが明るく笑い、
仲間たちも無言で頷いた。
未知の坑道、その先へ