金の匂いと港町の噂
グリュネ島──ある“宝の噂”が囁かれるその地が、ゆっくりと水平線の向こうに姿を現す。
ついに目的の島に到着した《ラ・ミスティーク》号の面々は、早速入港手続きと商会業務に取りかかる。
「荷物の仕分け班〜、港に出す物リスト確認して〜!」
レイラが甲板から叫ぶ。
「リオ、倉庫の封印解除。売り物を港の検査通してもらうぞ」
カシムが手帳を確認しながら指示を飛ばす。
「わかった。火薬系は後回しに」 リオが淡々と応じる。
交渉担当のカシムと経理担当のパメラは、町の税関係者との交渉と帳簿の擦り合わせに奔走しながら、
「この計算、去年と微妙に違ってるんだけど?」
「前回の納品額と整合性がない……これは見逃さないわよ」
と、相変わらずの“鬼の経理”ぶりを見せていた。
レイラはというと──
「ふふん、この街の金の匂い、けっこうするぞ……!」とニヤニヤしながら目を輝かせている。
「さてさて、入港終わったし──ここからが本番だねっ!」
「でねでね、みんな! 今回の“感”はけっこう来てるの!」
レイラがニヤニヤしながら、甲板を指差す。
「なんとな〜くなんだけど、山方面……つまり、あっちが怪しい気がするのよ!」
「……また“社長の感”?」
フィオナが呆れたように眉をひそめた。
「うんうん、今回はすごく“山の匂い”がするの! だから、情報拾うときは“山方面の話”もお願いねっ!」
レイラが拳を握って宣言する。
「うちの鼻がうずいてる……この街、金の匂いがするぞ〜〜!」
「まったく……はいはい。各自、持ち場で情報拾ってらっしゃい。って言っても、こんなとこ何度も来てるから、隠し金鉱なんて話、信じてるの社長だけだけどね……」
フィオナが呆れたように手を振りながらも、きっちり全体を仕切っていく。
街の名前は「オルステ町」。
エステロス商業連邦の自治都市として比較的自由な雰囲気を持つ。
夜。宿屋の酒場にて──
一日の業務と情報収集を終えた面々が、いつものように一卓を囲んでいた。
「さてさて、成果報告会といこうか!」
レイラがジョッキを掲げると、他のクルーたちも思い思いの飲み物を手に取る。
「で、結局どこに“金の匂い”があったのよ?」
パメラがジョッキを傾けながら言うと、レイラは「ちゃんとあったってば〜!」とむくれる。
レイラがふくれっ面をしながらも、興味津々でみんなの顔を見渡す。
「俺が聞いたのは、“鐘の音がする岩”の話だな」
トールはジョッキを置くと、少し眉をひそめた。
「どうやら、島の北西にある廃坑の周辺で、風が吹くと“ごぉぉぉん……”って、まるで鐘みたいな音が鳴るらしい。地元の連中は『あれは岩が鳴ってる』って言うんだが……」
「それがどうしたの?」とパメラが首を傾げる。
「問題は、その音が鳴ると“なぜか怪我人が増える”って話さ。理由は誰にもわかってねぇ」
「呪いの鐘、ってわけ……?」
フィオナが興味深げに目を細めた。
「かもな。でも、場所によっては金属探知の反応があるって話も出てた。あのあたり、地質的にも変なんだとよ」
トールが腕を組んで語ると、フィオナが目を細めて付け加える。
「迷信とも言われてるけど……噂だけは昔から絶えないそうよ」
「昔、鉱山で事故があったって話も聞いたぞ」
ガルドが短く言えば、
「“事故”のあと、立ち入り禁止区域が増えたとか、廃坑になって封鎖された坑道があるとか」
カシムが補足を入れる。
「でも〜、情報屋さんが聞き込んだ噂だと、その封鎖された廃坑の中に、何か“隠してる”って話もあったよ〜?」
ミネットがニヤリと笑ってクッキーをかじる。
「ねっ、ねっ、やっぱり宝があるってことじゃん!!」
レイラが身を乗り出す。
「……それが“金鉱”かはともかく、面白くはなってきたわね」
フィオナが静かに呟いた。
こうして、翌日の探索へ向けて、にわかに盛り上がりを見せる夜となった。
「明日は、その“封鎖された廃坑”のあたりを見に行ってみようか!」
レイラが地図の残像を思い出すようにテーブルに手を置きながら言った。
「例の封鎖された坑道があるのも、その近くだって話よね」
フィオナが頷く。
「行くのは構わんが……安全装備は必須だな」
ガルドが静かに警告するように言う。
「うんうん! 明日が楽しみ〜〜!」
レイラは目を輝かせてジョッキをぐいっと掲げた。
「よ〜し、明日こそお宝を見つけて──返済! そして大儲け〜っ!!」
「……夢見るのは自由だけど、無茶しないでよね」
パメラがぼそっと呟きながらも、ジョッキを合わせた。
夜の宿屋に、乾杯の音と笑い声が響いた。