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返済と弁明と正座と

「……で、これが“予定外の買い物”ね?」


パメラの眉が、海よりも深く、冷たくひそめられていた。

目の前には、小さな机と正座するレイラ。机の上には──輝く青緑の宝石。


「ちがうの! あのね、これはすっごくお得だったの!」




レイラは涙目で宝石を指さす。「原価の、たぶん三分の一くらいで買えたし!」


「“たぶん”って何よ! あんた、港で“そのキラキラしたやつすごい好きそうだから売ってやるよ”って言われて、ホイホイ買ったでしょ!?」


「……ぐぬっ」


レイラの肩がしぼみ、正座がさらに深まる。横から見ると、もはや正座というより土下座に近かった。


「ねぇ、リリィ。こういうの、どう思う?」

パメラが問いかけると、リリィはゆっくりと紅茶を口に含んだ。


「ん〜〜、まぁ“可愛いから許す”って選択肢もあるけど……」


「ほんと!? やさしい!? 女神リリィちゃん!?」


「でも、貸した金が返ってこなかったら、可愛さで飯は食えないよね〜?」


にっこり笑ったその裏には、氷のようなプレッシャーがあった。


「……でっすよね〜〜〜〜〜〜〜」


レイラは肩を落としつつも、懐から一枚の羊皮紙を取り出す。


「でもね、私、ちゃんと考えてきたの。返済案ってやつ!」


パメラとリリィの目が、ほんの少しだけ真剣になった。


「次に向かう島、あそこって昔から“隠し金鉱がある”って噂されてるんだよね。

地図もあるし、手順もバッチリ! これを元手に一発当てて──」


「また宝探しかよ!!」


「根拠は?」

リリィがぴしゃりと冷静な声を挟む。


「……えっ?」


レイラが固まる。


「噂がある? 地図がある? それ、全部“聞いた話”と“もらった紙切れ”じゃないよね?」


「…………」


「ふむ……なるほど。で、それ、どこで拾ったの?」

パメラの目も鋭くなる。


「──お、おばあちゃんが夢の中で教えてくれた!!」


「おばあちゃんって誰だよ!!!!」


「おばあちゃんはおばあちゃんだよ! 名前なんて知らないけど! 夢の中で“この地図は当たりだよ”って教えてくれたんだから!」


レイラは胸を張って言い放つ。


「それに、私の感がね──宝は絶対“ある”って言ってるもん!」


パメラとリリィが同時に、額に手を当てた。


「……でもまぁ、社長の感って、案外バカにできないんだよね」

パメラが呆れながらもぽつりと漏らす。


「うんうん、レイラってなんか妙〜に“当てる”時あるしねぇ。うっかり信じたくなるっていうか……」

リリィも、肩をすくめながら同意する。


「だって私、宝探しのプロだもん! “元”とれるって信じてるから!

  私の鼻はね、金の匂いにだけは敏感なんだからっ!」




──こうして、“返済”と“金策”を賭けた冒険は、またひとつ加速する。



港での仕入れと積み込み作業は、いつものように喧騒の中で終わった。


「パメラ〜! この取引書にサインして! えっへへ〜、ちゃんと割引してもらったよ!」

「……そりゃ、押し売りの危険品だからでしょ。受け取るのはあんたの責任だからね!」


大きな荷車が船に乗せられ、《ラ・ミスティーク》は新たな航海に備える。


「出航、準備よしっと!」

操舵室で舵を握るのは、無口で頼れる男、ガルド。

鋭い目つきと灰色の毛並みを持つ狼獣人で、かつては王国軍で部隊長を務めた歴戦の軍人。

元軍人らしい規律正しい動きで船員たちに指示を飛ばしている。


「んじゃ〜〜いくかね〜〜」

のんびりとした口調で号令をかけるのは、戦闘総指揮のトール。

豪快な性格とずんぐりした体躯を持つドワーフ族で、かつては傭兵団『黒鉄の誓剣団』の団長を務めていた。

その筋骨隆々の背中を見ていると、嵐ですらひるみそうだ。


「帆、展開! 海路、開放!」

船が港を離れ、波を裂いて進み出す

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