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07 鶴見ケイの調査01


「ぅうん」

 あぁ、まただ。

 悪夢で目が覚める。

 どんな夢かは目が覚めるとすでに失われている。けれど、起きた時にこの胸には寂寥感が支配している。

 何かに急き立てられるように感じてしまう。

 車内に流れるラジオではアナウンサーが今日一日の天気予報をつげる。

 中古の軽自動車の使い古されて薄くなったシートのせいですっかり身体は固まってしまっている。

 眠気覚ましに、とすっかり冷めたコーヒーを流し込む。

 すると運転席の男が声を上げた。


「やっと起きた」

 

 運動手として俺が連れてきた男。コウスケだ。


「何時間寝ていた」

「二時間。二時間ですよ。朝っぱらから人を呼び出して、車を出させて目的地告げたっきり寝ちゃうんですから」

「二時間か。まだまだ時間はあるな」

「いやいや、寝ようとしないでくださいよ。俺ずっと運転しっぱなしなんすよ」

「うるさいぞ。俺は社長で、お前は部下。これも仕事だ」

「何が社長ですか。俺とケイ先輩だけの会社で給与も出たり出なかったりで」


 動画配信者向けに動画編集やロケ地の確保などの作業請負を日銭稼ぎに行っていたのが大学を卒業した五年前。その後の疫病騒ぎで動画配信の需要が高まり、そのおかげで俺の仕事も多少の収入が見込めるようになり。過去に配信者をしていたが鳴かず飛ばずのコウスケをアシスタントとして雇い入れ、正式に会社として仕事を行っていくことにした。

 本来は動画編集メインでやっていくのだが、それだけではやっていけず、今では何でも屋まがいの状態だ。そんなわけで事務所なんて契約する余裕もない。と言っても客とのやり取りは今時すべてネットで済ませるから必要もないのだが。


「今回の仕事は前金でもらってる。ほら」


 とネットバンクの残高を見せる。

 ちょうど赤信号で停止したところでコウスケが横目でその金額を見て、口角をあげる。


「社長~、いくらでも車走らせますよ」

「わかったから、車走らせてくれ。あと二時間も走れば着くさ」

「給料が出るならいくらでも走らせますよ。しっかし地図アプリで見たけど何もない山奥ですよ? 撮影の下見の仕事とかです?」

「肝試し企画、その下見だ。それに何もないわけじゃない。廃村がある」

「廃村?」

「ああ、弧梁コハリ村だよ。村といっても平成初期には市に合併されてなくなってたがな。十年ぐらい前に人もいなくなってあとは朽ちていくだけの場所だ」


 今回の仕事は昔からの客で、当時は動画編集を請け負ったり、撮影の手伝いなんかをしていた配信者グループ。

 最近は流行り病での家籠り需要を察してボードゲームの配信をメインにして一定層の人気を獲得している。

 そして人々が病気の恐怖に打ち勝って外に目を向け始めたのに目をつけて今度はアウトドア系の動画を撮ることにしたようだ。さらに昔から人気の高い心霊を組み合わせて肝試しになったという。

 なるほどよく考えている。

 横で収入が嬉しいのか鼻歌交じりにハンドルを握るコウスケを見やる。

 なるほどこいつは成功しないわけだ。


「なんか失礼な視線を感じるんですけど」


 目ざとい奴め。

 馬鹿だが、空気は読める。というよりも勘がいい。こういう仕事をしていると、何でも屋としての働きを期待して怪しい仕事も何件か回ってくる。それらをコウスケは「ヤバそうだけれどやれそうっすね」とか「いやいや、絶対ヤバイっすよ」と野生の勘で見分ける。不思議なことに大体その通りになる。

 だから俺はこの馬鹿を雇っている。

 ふと、今回の仕事をコウスケはどう感じるのか気になった。

 仕事の内容としては真っ当なものだ。

 肝試しをやるのに最適な候補地の選定と、現地で撮影可能かの確認、それから当日の撮影許可。それで撮影当日に彼らに随伴して撮影、後日編集して納品。

 何でも屋というよりも俺たちの仕事の表の部分だ。

 だからこれは気まぐれでしかなかった。


「今回の仕事はどう思う?」

「え? ケイさんがそう聞くって今回の仕事って表の仕事じゃないんですか?」

「表だよ。それに裏の仕事をしているつもりもない。ただ久々の実入りがしっかりした仕事だからな。聞いてみただけだよ」

「そっすか」


 コウスケは納得したのか、少し考え込んでから口を開いた。

 俺はその返事を聞いて、どうして自分がそんな風にこいつに聞いたのかを思い至った。

 ナニカが不安なのだ。

 昔から見続ける内容も分からない悪夢。

 その日暮らしの毎日にも。

 なによりも俺自身がわからないんだ。


―――どうして俺がこの弧梁村を見つけたのか?


 依頼を受けてから、なぜだか記憶が曖昧なのだ。

 撮影場所を探した記憶はある。けれど弧梁村にどうやってたどり着いたのかは朧気だ。誰かから聞いたのか、自分で調べたのか。

 気づいたら俺は地図や何やらを用意してコウスケに車を出させていた。

 いや、気にすることではないのかもしれない。

 普通にネットで調べれば、トップページではないがいくつかの廃墟愛好家が弧梁村を紹介している。

 市のホームページにも歴史の中で弧梁村のことを紹介している。

 過去のニュース記事などでも弧梁村のことは出ているものが検索すれば出てくる。

 少し疲れているだけ。

 それこそ昨日何を食べたか一瞬思い出せない、みたいなレベルのことだろう。


 だからそういう些細な引っ掛かりと、日頃の鬱蒼とした思いから不安になったのだろう。

 そう自分を納得させて、再びコーヒーに口をつける。

 しかしコーヒーはすでに空。

 小さく舌打ちをすると紙コップをぐしゃりと潰して窓から捨てる。


 なんか行きたくねぇな、って感じっすね。


 すっかりと都会から簡素とした田舎道に変わった風景を眺めながら、コウスケの言葉を頭の中で繰り返す。


 行きたくねぇな。


 そうだな、同感だ。


「あと俺のことは社長と呼べよ」



ありがとうございました。

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