06 スキマ/fxj.
教室を出て購買に向かう。
普段は家で用意されたお弁当を持っていくのだがうっかりと忘れてしまった。
校内に食堂はないので、購買でパンとジュースを購入することにした。
お弁当をほとんどの生徒が持参することを前提に考えられていたので、購買は生徒数に対してとてもこじんまりとしたスペースしか用意されていない。
それがどういうことかというと、昼時には食べ盛りの生徒たちで大混雑している。
人混みがはけるのを待って購買ないに入る。
売れ残っていたプレーンのコッペパンを二つ購入する。
「どれにするかな」
いくつか並ぶ自販機で飲み物を吟味する。
パンと言えばコーヒー牛乳だろう。
財布から小銭を取り出そうとしたところで、手が滑る。
硬貨が僕の手から離れて自販機の下に転がっていく。
サッー。
吸い込まれるように硬貨は暗闇に転がっていく。
少ない小遣いをやりくりしているのだ。たかが百円。されど百円。一時の混雑は去って、人の姿もまばらになっている。自販機前にしゃがみこんで地面とのスキマを覗き込む。
目があった。
目が合った。
人がいた。
自販機と地面の僅かな隙間に人がみっちりと挟まっていた。
男性とも女性とも区別がつかない。
狭い隙間にすっぽりと嵌まり込んで、引き伸ばされた身体と顔。頭に髪はなく、土色の肌は暗闇の中にあってしっかりとこの目に映る。
瘦せこけ骨ばった身体。人間としてはありえない体勢で隙間におさまっている。大きな目がぎょろりと僕をみている。
瞬きしている。
口を開いた。
「きひひひひひっ」
奇妙な笑い声を上げた。
「見つあった! 見つあった! 出あれる! 出あれる!」
血走った目が見開かれる。
「あひひひひっ。こ、今度はお前の番あぞ。早くあ、あわれ」
細長い指が伸びてくる。まるでそれぞれに意識があるようで、虫のようにわしゃわしゃと動いている。
地面を這うように手が僕の方に伸びる。
まるで金縛りにあったようにその動きを見ていた。
そのやせこけた細い身体にすごい力があるようには見えない。けれどその手につかまれたら僕はその中に引き込まれるような気がした。と、言うのも先ほどから僕の身体はその自販機と地面のわずかな隙間に、何かが引き寄せられるように感じるのだ。
掴まれる。
その寸前だった。
指は目と鼻のすぐ先。
僕の目の前に紙パックが置かれて視界を塞がれる。
「どうぞ、ご馳走してあげるわ」
頭上からアイの声が聞こえてくる。
「アイ?」
「お金を落としてしまったのでしょう。そんなに狭い隙間では手も入れられないわ」
「あ、ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして。昼食時間が終わってしまうわよ」
僕は立ち上がり、膝の埃を払う。
「さぁ、いきましょう」
ありがとうございます。




