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04 タベル/\zt-

 放課後。

 部活に向かう友人達に別れを告げて、僕は一人教室を後にした。

 学内には放課後の音が流れている。

 吹奏楽部の途切れ途切れの音。

 その合間に聞こえて来る運動部の掛け声。

 用があるわけでもなく残って喋っている生徒たちの声。

 そんな音が僕は心地よくて好きだ。


 昇降口で、ローファーに履き替える。

 下駄箱はダイヤル錠が付いていて、生徒それぞれが設定している。

 数年前に生徒の上履きが何十足と盗まれる事件があったらしく、盗難対策として行われているらしい。


「ねぇ、相原くん」


 呼びかけられて、振り返る。


「来栖さん?」


 中学時代の同級生で、高校では別のクラス。

 僕自身、女子と積極的に会話するタイプではないので、来栖さんも名前と顔を知っている程度だ。

 所謂今時分の子である。

 校則にギリギリ引っかからない程度の化粧と、折り込んだスカート。

 彼女は何故だか自分の下駄箱を凝視したまま動かないでいる。


「ねぇ、ちょっとこっちに来て」


 下駄箱を見たまま急かすように僕を呼ぶ。

 どこか恐怖で震える声に僕は何事かとそちらに向かう。


「・・・音がするの。私の下駄箱の中で変な」

「音? 虫が入っているとか?」


 なるほど、いくら施錠されていても隙間はある。そこから虫が何かが入って、それをとって欲しいのだろう。


「ち、ちがうの。そんなのじゃない。あなたには聞こえないの?」


 いくら虫が嫌いだからと言って不自然なくらいに、身体が震えている。


「音?」


 僕はそっと彼女の下駄箱に耳を近づける。


「………」


 聞こえた。

 虫なんかではない。

 まるで。


「咀嚼音みたいな音がするのよ」


 青ざめた顔で来栖さんが言う。


 むしゃむしゃ。

 ぐしゃぐしゃ。


 はっきりと聞こえる。


「な、なんなのよこれ」

「わからない」

「相原くん、開けてみてよ。これじゃあ私帰れない」


 懇願するように、僕の腕を掴んで揺らす。


「………わかった」


 下駄箱に手を伸ばす。

 咀嚼音はどんどん大きくなるように思えた。

 

「ダイヤルは解除してあるから、そのまま開けて」


 そう言って僕を盾にするように背中に回る。


「開けるよ」


 下駄箱を開ける。

 

 扉を開けた先に壁があった。

 薄茶に汚れた白い壁のようなものが、扉を開けた先に、下駄箱を塞ぐように存在している。ブロック塀のように縦につなぎ目がある。

 

「なにそれ?」


 恐怖からだろうか、僕の腕を握る手が痛いぐらい締まる。


「壁? タイルみたいな?」


 長方形のブロックのようなものが二段ずつ並んでいる。

 なんだろう、と手を伸ばしかけて。


「あ」

「ひぃっ」


 僕は気づいてしまった。

 来栖さんも気づいたようで小さく息を吸い込む。


 これは歯だ。

 人の歯。


 伸ばしかけた手を引き戻した時。

 そのブロックに見えた上下の歯がゆっくりと開いた。

 そして、また閉じる。

 ぐじゃぐじゃ。

 むしゃむしゃ。

 と、咀嚼音が先ほどよりも鮮明に聞こえる。


 食べている。

 何かを。


「やぁああ」


 我慢の限界。

 来栖さんが掠れたような悲鳴をあげて倒れ込む。

 その来栖さんに押し倒されるような形で、僕は尻餅をついた。


「閉めて。はやく閉めて。はやく!」


 僕の胸に顔を押しつけて、来栖さんは閉めるように急かす。

 閉めたいが、彼女が邪魔でそうすることもできない。

 僕の目線はその下駄箱、いや口に固定されていた。


「ツナギくん、何をしているのかしら?」


 場にそぐわない、落ち着いた声。

 アイが、僕と僕の胸に顔を押しつけて震える来栖さんを、見下ろして立っていた。


「下駄箱の中に」

「下駄箱?」


 アイの視線が下駄箱に向く。


「何を言っているのかしら? なんの変哲もないただの下駄箱よ」


 嘘だ、と言いかけて呆気に取られる。

 本当にただの下駄箱だった。

 音も消えている。


「あら?」


 アイが下駄箱の中から何かを取り出す。


「嫌がらせかしら。あなたの靴壊されているわ。まるで・・・」


 辛うじてローファーだったとわかるただの合成皮革の塊。

 来栖さんのローファーだったもの。


「まるで、咀嚼されたみたいね」そのゴミを来栖さんに手渡し「さぁ、立ってツナギくん」

 

 僕に手を差し出す。


「さぁ、いきましょう」


お読みいただきありがとうございます。

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