03 ナニカ/z.r
休日。
居間では母と妹が昼食を食べていた。
遅く起きてきた僕は、その横で朝食兼昼食を食べる。
もそもそと食パンにジャムを塗ってかぶりつく。
その横で女性二人姦しく喋っている。
「お母さん、昨日の夜ユイナちゃんの家の近くにパトカーとか救急車きていた話知ってる?」
「知ってるわよ。ユイナちゃんのママから聞いたわ」
ユイナちゃんとは、妹の小学生からの友人で中学に入ってからも同じ部活で汗を流す仲だ。
何度か家に来たので、僕も顔は知っている。
確か、家から自転車で10分くらいのところに住んでいたはず。
「ユイナちゃんの家の向かいに一人で暮らしているお爺さんが死んでいたんだって」
「自殺でしょう、嫌ね」
全然嫌そうではなく好奇心剥き出しに二人は会話している。
せっかくの休日の朝から気の滅入る話はやめてもらいたいものだ。
「川端さんだったかしら。不思議なお爺さんだったわよね。パートに行く時に通るのだけれど、玄関や縁側なんかにてるてる坊主みたいに人形とか、ぬいぐるみとか吊るしていたわよね」
「うん。ユイナちゃんの家行く時、あそこの家の前通るの怖かったもん」
それは僕も知っている。
変わり者の独り身のお爺さんで近所付き合いもなく、いつも縁側で空を見つめて座っていた。
痴呆が始まっているわけでもなかったらしく。それだけであればただの独り身のお年寄りだが、特異なことが一つ。
家の周りに人形やぬいぐるみを吊るしていたのだ。
どこから持ってきたのか子供の好きなヒーローのソフビ人形から、テーマパークで売っているような熊のぬいぐるみ。とにかくなんでも吊るされていた。
気味が悪いと問題になったこともあったが、いくら注意されても吊るすことはやめなかったらしい。
「ここ最近川端さんの姿が見えないということで、誰かが市に連絡したらしいの。それで確認に行ったら川端さん家の中で首を吊っていたらしいわ」
「うわぁ、自分まで吊るすとか気味が悪いよね」
「けどね、ユイナちゃんのママ。川端さんが運び出される時に、開け放された玄関から家の中が見えたらしいのだけれど」
母は思わせぶりにためをつくる。
誰に聞かれるわけでもないのに声をひそめて、
「家の中を見た時は、最初暖簾と思ったらしいのだけれど」
「暖簾?」
「でも違ったのよ」
「先が輪っかになったロープ。ナニカを吊るす為なのか、輪っかがついたロープが無数に天井から吊るされていたらしいの」
「こわっ! そのうちの一つに自分を吊るしたってこと?」
「そうみたい。警察の人たちも気味悪がっていたらしいわ」
二人は寒気がする、と自分の腕を抱きしめていた。
「アイはどう思う?」
後日、学校前の横断歩道で信号待ちをしている最中。いつのまにか隣に立っていたアイに休日の母と妹のしていた話をした。
アイは少し遠くをみやるようにして、考えるそぶりをしたがすぐに興味を無くしたようで首を振った。
「さぁ、わからないわ。でも」
「でも?」
「てるてる坊主は晴れる為のおまじないでしょう。その人もナニカを願っていたのかもしれないわね」
「何かを」
何を願っていたんだろう。
そのナニカを叶えることはできたんだろうか。
「さぁ、いきましょう」
おそらくこのぐらいの短い話を連続で続けていきます。読んでいただけると幸いです。




