02 ハナ/9・
短い。
その奇妙な張り紙を見つけたのは、学校からの帰り道だった。
電信柱にB5サイズの紙が貼られていた。
大きな文字で『さがしていまス』と書かれていて、最初は迷子の犬、猫のチラシかと思った。
しかしそれはどうやら違った。
『にンげン』
辿々しく書かれた文字。
その下には説明文が載っている。
『イタイ、イタイ、となク』
『オス。きょセイ済ミ』
説明文の最後には写真が載っている。
20代前半ぐらいの男性。
ホストクラブのキャスト写真のようだ。ホストなのだろうか。メイクをした金髪の男性が流し目を送っている。
周囲を見ると家の塀、等間隔の街頭、電信柱全てにベタベタと乱雑にチラシが貼られている。
視界を覆い尽くすかのようにチラシが貼られている。
異様な光景に少しの悪寒を覚えた。
「あなた、このにンげン知っているノ?」
突然背後から声をかけられた。
女性の声。
振り返ると、異様な人が立っていた。
背は2メートルはあるだろうか。異様に長く、細い腕。指先は地面にまで届いている。
顔はベールに隠れいて見えない。けれど、見えなくてよかったと思えるものだろう。
純白のウェディングドレスを着た花嫁衣裳姿の女性。
「………あナた、このにンげンを知ってイる?」
一人の人間の声ではあるが、ところどころまるでいくつかの声が重なるような不思議な声。
僕は慌てて首をふる。
「………」
探るように僕の顔を覗き込むように顔を近づけてくる。
身体が強張って動くことができない。
何か答えようとして、口をパクつかせるばかり。
「あなた、ナニカ知っているの?」
女はさらに顔を近づけ、その長い両手を僕に伸ばしてくる。伸びた爪、そのうちの何枚かは剥がれている。骨ばった指がまるでそれ自体が意思を持つようにわしゃわしゃと動いている。
その手が僕に触れる瞬間。
僕の身体は背後から伸びてきた手によって、後ろへ引かれる。
「その男なら先の公園にいたわよ」
「アイ」
アイが僕の後ろに立っていた。
そして通りの向こうにある公園の方角を指差していた。
「………」
女はアイをじっと見てから、黙って僕らの横を通り過ぎて示された方へと向かって歩き出した。
女の姿は路地裏に消えていく。
「ありがとう」
「いいえ」女が立ち去った方を振り返り「変わった女の人ね」
もしもあの写真の男性が女に見つかったらどうなるのだろうか、と一瞬考えたがそれは僕には関係のないことだろう。
どこか遠くから犬の鳴き声が聞こえた。
「ツナギくん」
アイはもうそのことは忘れた、とばかりに僕の方へ向き直る。
「さぁ、いきましょう」
ありがとうございました。




