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13 モノ/4f4

「相原くん、悪いんだけれど消しゴム貸してくれるかな?」


 授業中。

 隣の席の山岸くんが小声で申し訳なさそうな顔をして言ってきた。


「ん。どうぞ」

「ありがとう、たすかるぅ」


 二限目。


「相原くん。ごめんね。ボールペンとか持ってたら貸してくれないかな?」


 再び山岸くんが声をかけてきた。

 僕は缶ペンケースからボールペンを一本彼に渡した。


「ごめんね。ありがとう」


 三限目後の休み時間。


「相原くん何度もごめんね」


 三度山岸くんが声をかけてきた。僕は苦笑しながら尋ねた。


「今度はどうしたの?」

「ルーズリーフが切れちゃってね。一枚貸してもらえる?」

「一枚でいいの? 午後はどうするの」

「昼休みになったらこっそり抜け出して近くのコンビニで買ってくるよ。だから次の授業だけもてばいいから。一枚いいかな?」

「いいけど、見つからないように行きなよ」


 僕はルーズリーフ用紙を一枚山岸くんに手渡した。


 午後の授業中。


「相原くん。本当にごめん」

「今度は?」


 呆れながら山岸くんに問いかける。


「本当にごめんね」

 

 僕は渋々彼のお願いに応えた。

 そのお願いはその日だけでも数回続いた。


「いや、今日は本当に助かったよ。ありがとう相原くん」


 ホームルームが終わると山岸くんは嬉しそうに教室を後にした。

 僕もそんな彼に別れの挨拶をして帰宅することにした。


 夜。

 時計の針は天辺を越えようとしていた。来月に控えた中間考査の勉強をしていた手を止め、そろそろ寝ようかとスマホを手に立ち上がる。


 山岸くんからの通知がきていた。

 また何か貸してくれとでも言ってきているのだろうか。

 などと考えながら彼に連絡する。


「……ごめんね。……相原くん」


 日中とは違いボソボソと喋る声がスマホのスピーカーから聞こえてくる。


「どうしたの?」

「……を貸してくれないかな?」


 抑々もなく、さらに声が小さくてよく聞き取れない。


「ごめん、よく聞こえないんだ。もう一度いいかい?」

「……君の……を……してくれないかな」


 僕はスマホのスピーカー音量を上げて耳に近づける。

 山岸くんは外にいるのか風の音や、行き交う車の音がさらに声を聞きづらくさせていた。


「君の家を貸してくれないかな?」

「は?」


 聞き間違いだろうか? 家を貸す? 山岸くんは何を言っているのだろう。


「みんな……きたんだ。……みんないっしょだよ」


 その時何処かで救急車のサイレンが鳴った。そしてそのサイレンは同じくスマホの向こうからも聞こえた。


 山岸くんはどこから連絡してきているのだろう?


 僕はおそるおそる窓に近づいてカーテンを開けた。

 二階の自室からは街灯に照らされた二車線の道路がみえる。

 夜間は行き交う車の量も少なく、先ほど聞こえた救急車が通り過ぎていくのが見えた。そしてその向こう。

 歩道に立ち止まっている人影が見えた。

 一人ではない。何人もの人が立っている。住居が立ち並ぶだけで、こんな時間に人通りがあるわけでもない。

 その中の一人が手をこちらに振った。


「……アイハラクン。カシテ……ホシイ。ミンナ……キタヨ」


 受話器から聞こえる声は山岸くんのものではない何かになっている。


 ぞろぞろとその人影は道路を横断し始めた。

 幾人もの人の列が行進している。ゆらゆらと揺れる黒い影が夜の町の中をこちらを目指して歩いてくる。


「ツル……。ボクモ……シテ。ミンナツル……。……シテ」


 僕は急いでカーテンを締めると、急いで一階に駆け降りた。そして玄関のドアを確認する。

 鍵もチェーンもかけてある。


 いる。


 気配がドアの向こうからした。

 ナニカがドアの向こうにいる。


「……」


 スマホのスピーカーから声らしき音が聞こえている。

 自然とスマホを耳に当てていた。


「ちゃんと聞いているのかしらツナギくん?」

「……アイ?」

「何を言っているの? 私以外にあり得ないでしよ。一緒に勉強しようって通話をしていたじゃない」

「……? そうだったけ」

「ええ、そうよ。ずっと私と通話していたわ」

「あれ?」

「ふふっ、勉強し過ぎて疲れているんじゃないの」

「そ、そうかもしれない」


 僕はおそるおそるインターホンのカメラを確認してみる。

 荒い映像がモニターに映し出された。夜の風景と、街灯の灯り。時折通り過ぎる車のヘッドライト。

 山岸くんらしき人影は消えていた。

 そして……。


「さぁ、部屋で休んだほうがいいわ」

「そうだね。もう眠るよ。ごめんねアイ。おやすみ」

「ふふっ、いいのよ。おやすみなさい」


 僕は『玄関の向こうに立つ』アイにおやすみを告げる。

 モニターに映るアイはいつもの微笑みを浮かべていた。


「さぁ、いきましょう」

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