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01 ヨブ/be

 連作掌短編です。一話一話の文字数にはかなりの差があります。

 読んで頂けると嬉しく思います。

 未熟な文章ですので、もし読んで何か思うところや、直すべき文法や誤りがあればご報告頂けると今後の勉強になります

 


 面白い話を聞かせてくれた学生時代の友人Mへ。


 朝、いつもの通学路。


百葉創英(モモハソウエイ)高校前〜』


  いつもの運転手の声でうたた寝から覚めて、バスを降りる。

 あと一月で僕が高校生になって一年が経つ。

 幹線道路の向こうに見える学舎の桜が新しい新入生を待ち侘びるように、花びらを咲き散らしている。

 

 朝早くから忙しなく行き来する大型トラックや、自家用車。

 学舎前のこの道路の信号は長いことで有名だ。

 ブレザーの内ポケットからスマホを取り出して眺める。

 数人の生徒が気怠げに信号を待っていた。

 僕と同じように、混雑するスクールバスを避けて少し早めの路線バスに乗って通学する生徒や、部活の朝練でもあるのかパンパンに膨れ上がったエナメルバックを肩がけした生徒。


 ふと。


 違和感に顔を上げる。

 日常生活では聞かない音が耳を抜ける。


 ーーーッ。


 とてつもなく不快な音。

 同じ学校の制服を着た男子生徒の体が自家用車のフロントと正面衝突した音。

 車が急ブレーキをかける音。

 次いで、アスファルトにその身体が叩きつけられ、何かが砕ける音。

 場違いなスマホの通知音。


 誰も悲鳴をあげなかった。

 あげられなかった。

 目の前で交通事故が起きた、三月の朝だった。



 

 名前も知らない上級生の死を日常に落とし込むのにはそう日はかからなかった。

 学校からは出来うる限り校門前まで運行しているスクールバス利用を促すアナウンスがされたが、はじめの頃は従っていたものの、スクールバスは本数が少なく混雑しやすいこと、朝練などの理由で登校時間を早めたい生徒たちは様々な理由から市営バスを使い始めた。

 僕もそんな一人だ。

 朝の鮨詰め状態のスクールバスよりも、ゆったり座ることのできる市営バスを使うほうがリラックスできる。

 人混みは苦手だ。

 理由がある訳ではない


 バスを降りると、道路の向こうから桜の花びらが風に飛ばされて飛んでくる。

 いつも通りの信号待ち。

 ちらり、と道路を見るがすでにひと月前の痕跡を見つけることはできない。

 ただ信号機の下に備えられた花やジュースの缶がここで起こったことを想像させた。

 

 あと数分は変わらない信号。

 朝から気の滅入る光景は見たくない。

 胸ポケットからスマホを取り出して画面を点ける。

 視界の端に通り過ぎていく車の影が見える。

 なんとなしに、隣に並ぶ下級生たちの会話が聞こえた。


「ここで俺たちが入学する少し前に交通事故があって、生徒が死んだらしいぜ」

「なに、それやべぇ」


 まだひと月も経たない新入生からすれば、あの交通事故も物語の一つでしかないんだろう。


「それでさ、先輩から聞いたんだけどここってかなり事故が多いらしいぜ」

「こんな見晴らしいい道路なのに?」

「だいたいがうちの学校の生徒の飛び出しらしい。信号長いから待ち切れなくて出ちゃうんだって」

「ああ、たしかに長いよなこの信号」

「だけど、それだけじゃなくて・・・」


 声を顰めて、如何にも大事な話という風に勿体ぶって口を開く、


「殆どの事故や、事故に遭いかけた生徒が口を揃えて言うんだ。青信号だと思ったって」

「なんだ、そりゃ」

「不思議だろ? だから信号もわかりやすいように大きいものに付け替えて、音もなるようにできている。それでもやはり事故は起きるらしいんだ」

「なんか怪談みたいだな」


 たしかにそんな噂は事故の後、クラスでも囁かれていた。

 すぐに話題はゴールデンウィークに何をするか、という会話に切り替わった。

 

 ふと。


 ふと、信号が青になったのがわかった。


 僕は横断歩道に踏み入れようとした。


 ぐっ、と。

 手が握られて、引き戻された。


「ツナギくん。相原ツナギくん」


 名前を呼ばれ、その手の主を振り返る。

 それと同時に僕の頭の後ろ、すぐそばを大型トラックが通り過ぎた。


 そこに立っていたのは見知らぬ女子生徒。

 タイの色から、同級生であることがわかる。

 背中まで伸びた黒髪が、黒いセーラー服と同化していて、白い肌の中でも目立つ大きな黒目。

 全体的に黒い、という印象を受ける女子だった。


 ……そうだ。

 彼女は同じクラスのアイだ。

 僕の後ろの席に座る女子生徒。

 どうして忘れていたんだろう。一年生の時から彼女は僕の後ろの席に座っていたではないか。


「どうしたの? ツナギくん。まだ信号は赤よ」


 冷たい声。

 全然疑問に思っていなさそうな声で問いかけ、まだ赤く光る信号機を指差す。


「あ、あぁ」


 情けなく頷き返すことしかできない。


 戸惑っていると信号は今度こそ青に変わった。歩行を促すメロディが耳に届く。


「ほら、信号が青になったわ」


 アイが歩き出した。

 僕はつられるようにその後を歩き出す。


 どうして。

 どうして僕は青だとおもったのだろう。

 

 横断歩道を渡り終え、疑問に思い振り返る。


「そうか」

 

 納得した。

 僕が先程まで立っていた場所。

 そのあたりに見えるのだ。


 あった。


 足。二本の足があった。


 膝までの人間の足があった。


 どうして青信号になったと思ったのか。

 それは下を向いていた、僕の視界の端であの足が歩き出したからだ。

 だから青に変わったと勘違いして歩き出そうとしてしまったのだ。

 あの足はなんなのだろう。

 あの時の事故も、それ以前にあったという噂の事故も。

 全部あの足のせいなのだろうか?


「ツナギくん、ナニカあるの?」


 アイが振り返り僕を呼ぶ。


「あれ、君には視える?」

「あれ? どのことを言っているのかしら。私にはなにも見えないわ」


 小さくアイが笑う。


「さぁ、いきましょう」

「あぁ、いこうか」


 


もしもここまで読んだ人がいたのならありがとうございます。

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