王の最後
深夜テンションで書きました。
金を基調とした煌びやかな装飾。
埃一つとしてなく、寝転がっても問題ない床。
値の付け様のない奇跡の芸術品の数々。
見る者全てを圧倒する玉座。
そして、余以外誰もいない伽藍の城。
余に従う臣はおらず、余を慕う民もいない。
町には革命の旗が掲げられ、兵士に物資を調達している。
いくら城に罠が仕掛けられていたとしても、つい先日までここを警護していた兵士からしてみれば、無人の城攻めなど赤子の手をひねるようなものなのだろう。
城壁が穿たれることもなく、城壁を上って侵入されることもなく、ただただ全開に開かれた城門から大量の兵士がなだれ込んできている。
扉の向こうから救国の英雄が現れるのも時間の問題だろう。
「余は、、一体どこで間違ったのだろうか。」
戴冠してより数十年間、余はこの国を導き続けた。
昔はただただ、友達やその家族を守りたくて、住む場所を与えるべく村を作った。次第に村は大きくなり、文化も技術も発展していった。
天災に見舞われることもあった。龍に襲われることもあった。土地や技術を奪いに戦争を起こされたときもあった。隣人の死はわかっていても本当に辛くて、余もこれ以上の苦しみを味わいたくなかった。
そのとき、余は誓ったのだ。守れるだけの力を持とうと。
兵を鍛えた。武器を造った。富を蓄えた。土地を増やした。そして、何より余は守るために力を求めた。
余の国は強く逞しく巨大な国となった。
戦あれば余自らが先頭に立ち、あらゆる困難も乗り越えた。平和のため、世界を一つにするため、余は戦争に明け暮れた。多くの墓標が立ったがいずれ来る平和のためには致し方ない犠牲であった。
妻も道半ばで命を落とし、古き友も次第に数を減らしていった。余は止まることは犠牲を無駄にすることに他ならない。故に余らは立ち止まってはいけないはずだ。
気が付けば、大陸全土の併合が終わっていた。
多くの町が焼け落ち、多くの悲劇が生まれていた。
周囲を見渡しても、守りたかった隣人は墓標の下。
守りたかったものは既になく、残っているのは、富、国民という名も知らない他人、その他人達による兵団、そして力への執念だった。
目的が消え、残ったのは手段だけ。
気が付けば余は兵を集め、富を集め、海外へと侵略を始めていた。
民は疲弊し、富も減り、治安は悪化し、病は流行った。
それでも余は戦争を続けた。徴兵と税だけが増加し、逆らう者は粛清した。
「ああ、そうだ。余は間違っていた。ああ、なぜ今まで気づかなかったのだ。」
実に滑稽である。
目的のための手段が、目的を壊していたのだから。目的が壊れ、目的を忘れ、いつの間にか手段が目的となったのだから。
かつての友を思うと目から涙が零れた。
余はいつも最善を選んでいるつもりであったが、いつからか常に悪い方向に舵をきっていたようだ。
「暴君か、暗君か、それとも狂王か。いや愚王だろうか。」
余が後世どう呼ばれるかが少し気になった。いや、もしかしたら抹消されるかもしれないな。
カチャカチャと鎧の擦れる音が近づいて来る。救国の英雄が来たようだ。
「民を苦しめ、悪戯に戦火を広げる愚者よ。我が名はノブ。今ここに断罪の刃を届けに参った。」
勢いよく扉が開き、白い髪をした青年が現れる。キリッと整った顔は余を恐れることなく真っ直ぐとこちらを向いている。既に剣は鞘から抜かれ、その刀身は青く輝いていた。
「よくぞ参った。若き反逆者よ。余はスラル王国建国の父であり、大王ラサ=オールストである。」
余が間違っていたことは余が既に理解した。だからこそ、全霊を持って相手をしてやろう。
余は剣を抜き、玉座から立ち上がる。
「さあ、来い!」
人生最後の戦いを始めようではないか。
◇ ◇ ◇
「ぐほぁっ!!」
口からは血が溢れ出る。
足元には切り飛ばされた右腕が落ちている。
腹を剣に貫かれ、すぐ目の前には余を見事討ち取った勇者の顔がある。
彼の体は傷だらけで今にも失血で死んでしまってもおかしくないくらいに血が出ていた。
それでも彼も目は真っ直ぐで、余の様に醜く濁っていない。
「王命である。己が信念を忘れるな。」
ああ、とても良い眼だ。
願わくば、彼の眼が曇らないことをいのるばかりだ。