祭壇の道
平日の夕方ことである。
高校からの帰り道を剛士はひとりで歩いていた。いつも通る市道沿いの見馴れた道だが、家まであと数分の場所に来て
(おや…)
と思った。
交差点の手前で、普段は見かけない物が目に入ったのだ。
それは花だった。
ガードレールの切れ目に花束が置かれていた。
「?」
花束は1つではなく何束もあり、たくさん重ねるように置いてある。まるで祭壇のお供えのようだった。
もしかして、と剛士は思った。
ここで事故でもあったのだろうか。事故の供養のために付近の住民が置いたのだろうか。
でも変だった。
この辺りで死亡事故が起きれば話題になって噂がすぐ届きそうなもである。剛士が住むのは地方の小さな街であり人身事故など滅多にない。もし起きれば格好の話題になるはずなのだ。
なのに…
家でも学校でも誰も事故のことなど話していなかった。
剛士はスマホを取りだし調べてみた。ワードを変えて何度も検索した。しかし事故のニュースは一件も見つからない。
家に帰って家族に聞いたが、やはり事故のことなど知らないという。それどころか
「花束なんてあったかしら」
母は、同じ道を通ったらしいが花束なんか見てないと言った。妹も同じで
「やだ。恐いんだけど。お兄ちゃん呪われてんじゃない」
兄をからかうようなことを言った。
その日の夜、剛士はコンビニに出かけた。
立ち読みのついでにジュースを買うつもりで家をでた。市道まで来て花束のことを思いだし、確認のつもりで寄ってみた。
「やっぱり」
花は供えてあった。しかも数が増えていた。
花だけじゃなく、お菓子や飲み物も供えてあった。
剛士は被害者に思いを馳せた。子供だろうか。男だろうか、女だろうか。
供えてあるジュースはちょうど剛士がコンビニで買うつもりのものだった。最近のお気に入りの飲み物だ。
「あれ?」
花に隠れて気づかなかったが写真が飾られていた。きっと事故で亡くなった被害者の遺影なのだろう。
写真をよく見ようと覗き込んだ。夜なので見えづらく、写真の向きを少し変えて街灯が当たるようにした。
そして、ハッとした。
写真に写っているのは剛士の顔だった。間違いない。今年のキャンプで撮った自分の顔である。
え、どういうこと? なんで遺影に俺の写真が…
考えた矢先のことだった。
ヘッドライトが体を照らした。振り向くと、トラックがこちらに向かって直進していた。
「危ないっ」
猛スピードのトラックが、居眠りするドライバーを乗せたまま剛士めがけて突っ込んできた。