王太子殿下に優しくしてたら公爵令嬢と婚約破棄をすると言い出したのでちょっと待ってほしい
◇◇◇
「アイリス・グリスリー!今日をもって君との婚約は破棄させてもらう!」
貴族学園の華やかな卒業パーティーの最中、突然言い渡された王太子の宣言にあたりは騒然となった。
「婚約破棄ですって!いきなりどういうことですの!?」
王太子であるリチャードの婚約者は、公爵令嬢のアイリス。冷たく傲慢だと評判の令嬢だ。けれども将来の王妃として、アイリスにおもねる者は多い。今日も大勢の取り巻きを従えひときわ目立っていたが、王太子の宣言に真っ青になる。
「君はここにいるリリスを学園で虐めていただろう!そんな君が王族としてふさわしいとはとても思えない」
続くリチャードの言葉に周囲の令嬢たちもお互いに顔を見合わせる。確かにアイリスはリリスに対して度重なる嫌がらせを行っていたからだ。
「くっ、確かにわたくしはリリス嬢に何度か苦言を呈しましたけど。私という婚約者がいる王太子殿下に馴れ馴れしくするからですわっ!わたくしは悪くありません!」
苦言と言うにはかなり過激ないじめの数々。だが、婚約者がいる王太子殿下に対し、伯爵令嬢であるリリスが何度も馴れ馴れしく声をかけていたのも事実。貴族の令息たちは、どちらの味方をするべきか、迷っていた。
「苦言?ドレスをびりびりに破いたり、教科書をカバンごと池に捨てたり、足を引っかけて転ばせたりするのも苦言か?」
「記憶にございませんわ。わたくしがやったという証拠でもございまして?」
ツンッと顔を背けるアイリス。
「だが、二階から花瓶を落とすのはやりすぎだと思わないか?あれは、亡くなったおばあさまが大切にしていた国宝だ」
「えっ!あの趣味の悪い花瓶がまさかそんなに高価なものだったなんて!」
言った後ハッとして口を押えるアイリス。
「確かに趣味は悪いが国宝は国宝。父上は深く悲しんでいた。この件だけでも、十分婚約破棄に値すると思うが?」
「くっ……」
どうも情勢はリチャードに有利に運んでいるらしい。アイリスの不利を悟った取り巻きが少しずつアイリスから距離を置いて離れていく。
「アイリス、君には謹慎を申し渡す。花瓶は弁償してもらうから覚悟しておくように。そして今日ここで新たに宣言する。私は、リリス・カーラ伯爵令嬢を新しい婚約者として迎えようと思っている」
おお~というどよめきが会場に響き渡る。一介の伯爵令嬢が新たな王太子妃候補となる。これは、ビックニュースだった。
「ま、待ってください!」
だがそこに、なぜか今まで顔を真っ青にして黙っていたリリスが声を上げた。
「こ、困ります!私、王太子妃になんてなれません!」
リチャードはおろおろと動揺を隠せないリリスにそっと跪く。
「リリス。君に相談もなくすまない。でも私は君を愛している。どうか、王太子妃となって私を支えてくれないだろうか」
「リチャード殿下……」
「リチャードと、呼んで欲しい」
王太子の突然のプロポーズ劇に会場から黄色い悲鳴が上がる。顔面偏差値が上限突破している王太子はこの国の令嬢なら誰もが恋に落ちずにはいられない憧れの存在。その王太子殿下に跪かれて落ちない令嬢などいない。と思われたが、
「本当に困るんです!!!私、リチャード殿下のことを愛していません!!!」
響き渡るリリスの声に、会場がシンと静まり返る。
「え?」
跪いたまま固まるリチャードの肩に、ポンッと手が置かれる。
「すまない。リリスは私の恋人だ」
「国王陛下!?」
それまでなりゆきを見守っていた貴族たちが、思わず声を上げる。
「陛下!」
嬉しそうに国王の胸に飛び込んでいくリリス。
「卒業おめでとうリリス。今日の日を待っていたよ」
「ご、ごめんなさい。リチャード殿下に認めて欲しくて仲良くなろうと努力していたらこんなことに」
「いや、愛らしい君の魅力にリチャードが虜になるのも仕方がないこと。私の配慮が足りなかった。すまなかったな」
急にいちゃいちゃしだした二人の姿に、会場中の貴族がそっと視線を背ける。跪いたまま固まっているリチャードの姿があまりに憐れだったので。
「すまないな。息子ほど年の離れた令嬢と再婚を考えているとはなかなか言い出せなくて」
「愛する王妃様を亡くした後、男手一つで殿下を育て上げた陛下を支えて差し上げたいと思ったのです。わたし、年上の男性が好みのタイプなので。これからは、本当の母親だと思って甘えてくれませんか?」
リリスの言葉にリチャードは泣いた。
「……お二人で、幸せに、なってほしい」
その一言を言うのが、精いっぱいだった。
「はいっ!」
こうしてなんとなく気まずい雰囲気の中、卒業パーティーは解散になった。しばらく新しい国王夫妻の隣で死んだ魚のような目をしているリチャードの姿が見られたが、新たな王太子妃候補の座を巡り熾烈な令嬢たちのバトルが再開されたので、リチャードが真実の愛を見つける日もそう遠くない。はずだ。
おしまい
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