第五章 性 ⑦
売春以外の罪で捕まったことがあるのかないのかそれは知らない。けれど、二度目に売春防止法違反で捕まったのは、私が中学三年生の時だった。知人が親切にもまり子さんが売春防止法違反で捕まったから帰れないと電話で知らせてくれた。
どんな不幸な人でも、もしかしたら一つくらいいい事があるかも知れないと微かな期待を抱けるような五月晴れの日。
受話器を置くと、思わず笑ってしまいそうになる。
「まり子さんらしい」
そう思うと可笑しくて堪らなくなった。本当に……まり子さんらしい。
まり子さんが詐欺でつかまろうと、薬や傷害で捕まろうと今更驚きはしない。
痴話喧嘩の果てに殺されようと、汚いラブホテルのベッドの上で変わり果てた姿で見つかろうと。驚きはしない。それどころか、とにもかくにもベッドの上で死ねたなら、上出来だと思うだろう。
よりによって売春防止法違反。最初はいつだっただろう。忘れていた。もう、忘れていたのに……。
売春防止法違反、中学生になっていた私にこの罪名ほど拭いがたい屈辱感を味あわせる罪はなかった。まるで自分が辱められたような気がした。
まり子さんは体を売ったという意識さえなかったかも知れない。お金を貰うのは当然のことなのだから。
そして私は娼婦の娘。売春婦の娘。
まり子さんを知る人たちが、どんな目で私を哀れんだが、まり子さんはけして知る事はないだろう。まり子さんに敵意を持つ大人たちがどんな言葉で私を罵ったか、知る事はないだろう。気にもしないだろう。
前科はまり子さんについて回る。でも、何も罪を犯してはいない私がその前科に怯え、まり子さんは平気な顔で生きていく。
まり子さんは母だというだけで、私を傷つけることができる。いつでも私をズタズタにできる。