第五章 性 ⑤
小さい時はまり子さんの相手に会ったことも何度かあった。相手はよく変わったので、一緒に居て欲しいとまり子さんにささやいたの男がどの人だったのか知らない。
寝物語にそんなこと囁きながら、帰りには金を渡していたのだろうか、それとも本気で側にいて欲しいと願ったのだろうか。
まり子さんは寝る、寝ないに関係なく男からも女からも金は引き出してきた。
涙も笑顔も身体も身の上話も私も、使えるものは何でも使っていた。
時には、健気なシングルマザーを演じ、時には夫の暴力から逃げている女を演じた。親も私もよく病気にされた。まり子さんはとっくの昔に勘当されていたが、実家の親は知らない間に何度も癌になり、私も10回くらいは重病になって5回くらいは死んでいる。
まり子さんに言わせれば相手が勝手に援助してくれるらしい。人の好意には甘えないことの方がまり子さんにはよほど罪なのだろう。
小学校の頃、ある朝、目覚めたら、見慣れぬ所で寝ていた。なんとなく辺りを見回すと、私の方を見ている子どもに気づいた。驚いて飛び起きると、横に寝ころんでいたまり子さんと男がくすくすと笑った。
よく見ると、それは鏡に映った私だった。私が寝ていたのは壁面がすべて鏡張りのラブホテルの一室だった。いつの間にか私は、大きなベッドの上でまり子さんと男と三人で寝ていたらしい。
鏡に映る寝ぼけた自分の顔が恥ずかしくて、私は身の置き所もなかったが、まり子さんと男は朝からご機嫌だった。
まり子さんの連れてきた男たちは小さな私に優しかった。
いろいろなものを買い与えてくれた。
欲しいものはないかと向こうから聞いてくれる。そう聞かれると、欲しいものがなくても、言わなければ悪いような気がして、お人形が欲しいとか無難なものを口にした。
「じゃあ、次に会う時に買ってきてやる」
男は嬉しそうな笑顔で約束してくれた。
約束通り、二度目に会った時、当時高価だった手足の曲がる美しい着せ替え人形をプレゼントしてくれた。
嬉しかったけれど、この名も知らぬ男にどんな風に喜んでいいのかわからずとまどった。甘えていいのか、大人しくした方がいいのか。でも、悩む必要はなかった。その男と会うことは二度となかったから。