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『ファ○マの音楽を鳴らす能力』でクラスメイトと異世界を生き抜くことになりました。〜クラス全員で異世界転移したけど、誰1人として使える能力がいなかった件について〜

 その日も、何の変哲もない普通の日だった。


「やっと授業終わったぁー!」

「誰か飯行こうぜ」

「無理ぃ……寝るぅ……」


 4時間目が終わり、クラスの中が一気に騒がしくなる。待ちに待った昼休みなのだから当たり前のことだろう。


(腹減ったな……飯、行くか)


 そして、クラスの中で1番前の席に座っている俺……大原(おおはら) 唯斗(ゆいと)も、そんな昼休みを待っていた1人。いつも通り食堂に行くために教室を出ようとしたその瞬間……


「……っ、開かない?」


 教室の扉が、微動だにしない。噛み合わせが悪いのかと思い叩いてみても、それは変わらなかった。さらに、異常はまだまだ続く。


「ね、ねぇ……何、これ!?」

「なんか模様出てるぞ!?」


 そんな声につられて下を見ると、全く見たことのない光る模様が床に大きく描かれていた。一体、何が起こってるんだ……!?


「窓も扉も開かねえ、閉じ込められてるぞ!」

「地面揺れてるし! なんなの、これ!?」

「みんな、とりあえず頭を守るんだ!」


 床の模様の光はどんどん眩しくなっていき、地面が揺れ、机の上のプリントが舞う。何が何だかわからなくなった俺は、とにかく身を守ろうと机の下に潜り込む。


 しかし、そんな抵抗も虚しく……眩い光と共に、俺の意識は吹き飛んでしまった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「あれ、ここは……?」


 少しの頭痛と共に目を覚ますと、目の前には見たことのない景色が広がっていた。


 周りには見たこともない形の木が生い茂っており、その中の開けた場所に俺は倒れていたようだ。空にはいろんな生き物を混ぜたような鳥も飛んでるし、周りの地面の上には……


「……っ、みんな、大丈夫か!?」


 クラスメイトたちもさっきの謎の現象に巻き込まれたらしい。どうやら俺が1番先に起きたようで、他のみんなはまだ地面で倒れていた。


「その声……大原、くん……?」

「白川さん! 良かった、生きてる……ってことは、他も気絶してるだけかな……」


 続いて目覚めたのは、うちのクラスの学級委員、白川(しらかわ) 雪月(ゆづき)。さらに、それに続くように続々と他の子も目を覚ましていき……


「何なんだよ、ここ!?」

「もうやだおうち帰るぅぅぅぅ! マァァァァマァァァァ!!」

「ああ、我らが神よ……何故試練をお与えになるというのですか……」


 そして、案の定パニックになった。当然だ、変な災害みたいなのに巻き込まれて目覚めたら知らない場所にいた、なんて驚かないほうがどうかしている。


 俺だって言いたいことは山ほどあるが、1番先に目覚めたおかげで冷静になる時間が取れたのが唯一の救いだったと言えるだろう。


「落ち着けって! 騒いでも意味ないだろ!」

「大原くんの言う通りだよ! あぁ、ダメ……みんな錯乱しちゃってる……!」


 俺と白川さんは必死にみんなを抑えようとするが、その努力も虚しく混乱は広がっていくばかり。これじゃどうしようもないと諦めようとした時のこと……


「皆の衆、落ち着くでござるよぉ!!!!」


 突如、誰よりも大きな声で叫ぶ1人の女子が現れた。あれは……


「「尊華(そのか)さん……!?」」


 クラス内屈指の美少女、そして語尾がおかしな重度のアニメオタクで知られている、御宅(おたく) 尊華(そのか)だ。


 普段はあまり大声を出さない彼女の意外な叫びに、あたりは一気に静寂を取り戻す。


「落ち着けって言ったってよ……この状況が何なのか訳わかんねえんだよ! 落ち着けるわけ────」


 しかし、クラス1の暴君こと緋田(ひだ) 裕二(ゆうじ)がそれに反論するようにそう怒鳴る。だが……既に謎のモードに入っていた尊華さんは、止まることがなかった。


「だから落ち着け、と言っているのでござろう! これは俗に言うアレでは!?」

「「「「アレ……?」」」」


 実際、俺も1つ()()なんじゃないかと思うものはある。でも、あまりに突拍子もない考えだから切り捨てたけど……やっぱり、アレなんだろうか。


「教室で浮かび上がる謎の魔法陣、目覚めた場所は知らない土地……そう、異世界転移しかないでござろう!」

「「「「異世界ぃ!?」」」」

(まあ、そうなるわな……)


 そう、ラノベ読者なら一度は読んだことがあるであろう()()異世界に、俺たちのクラスが丸ごと転移させられた……という可能性。


 とんでもない考えだけど、あまりにシチュエーションが合いすぎていてむしろそうとしか思えない。


「尊華、お前適当なこと言ってんじゃねえぞ! 第一、どうやって異世界なんて証明すんだ!?」

「そ、そうだ! わけ分かんないこと言うなよ!」


 それは、多くのクラスメイトも理解できなかったようで……緋田を筆頭に、次々と尊華さんに罵声が浴びせられる。


 だが俺は、なぜか尊華さんを信じてみようと思った。だから……


「『ステータス・オープン』!!」

「大原くん!? 急に何を言って……」

「大原殿! 分かっておられますなぁ!」


 クラスのみんなに聞こえるように、人一倍大きな声でそう叫んだ。すると……


「……やっぱり、予想通りだ」

「おっひょぉぉっ! テンション上がりますなぁ!」

「「「「なんだこれ!?」」」」


 目の前に出てきたのは、文字が書かれた透明ないたのような『なにか』。もしもここが異世界ならば、この掛け声で出てくれると思っていた。


(出なかったら恥ずかしくて失神ものだったけど……良かった、本当にあったみたいだな)


 そこには、HP(体力)ATK(攻撃力)DEF(防御力)などが数値と共に書かれている。ゲームやファンタジー世界でよく見るステータス、ってやつだろう。


 そして、その中でも目を引くように大きな文字で書かれているのは……


「固有スキル『コンビニ・ミュージック』、コンビニの音を流す……?」

「固有スキルッ!! 異世界モノの華ですぞぉ! 是非とも、是非とも使ってみてくだされ大原殿!」


 テンションがブチ上がっている尊華さんは置いておくとして、固有スキルとやらは俺も気になる。発動の仕方は……うん、なんとなく分かるな。


(こういうのはチート能力が多いからな……行くぞ!)


 期待と希望に満ちた心で、俺は大きく息を吸い……


「スキル『コンビニ・ミュージック』!!」


 自信満々の声でそう叫んだ。その瞬間……ある意味、予想だにしないことが起こった。


《テレレレレレーン♪ テレレレレン♪》

「……えっ?」


 それは、どこかで聞いたような音楽。これは……アレだ。多分、いや、間違いなく……


「「「「ファ○マだ……!」」」」


 あのチキンが有名な某コンビニだ。間違いない。高校生の俺たちは、学校の帰り道や遊びの合間に身に染みるほどこれを聞いている。


「……って、そうじゃねえよ!」


 なんだよこの能力! 普通もっとチートな能力あるだろ!


「なんというか……素朴な能力ですな、大原殿……」

「な、懐かしい感じがしていいと思うな!」

「その……騒いで悪かったよ……」


 おいやめろこの雰囲気。なんか虚しくなるからやめてくれ。いや、俺はまだ諦めないぞ。本当はまだ隠された力が……!


(本当の力を見せろ! スキル『コンビニ・ミュージック』!!!!)


 今度はさっきよりも強く発動の意思を込めてスキルを発動する。すると、今度は……!


『テーンテッテテーン、テテッテーン♪』

「「「「セ○ンイレ○ンだ……!!」」」」


 そうそう、ファ○マも有名だけどやっぱりコンビニチェーンと言えば売上最大手の……


「だからそうじゃねえよ!!」


 音が変わったところで何になるんだよ! 何も起きねえよ! ずっと夢を見れねえよ! 今を直視できねえよ!


「う、うむ。バリエーションが多いのは良いことですぞ、大原殿……」

「なんか、夢を持てる感じがするね! いいと、思うよ……」

「大原、俺が悪かった……もう、もういいんだ……」


 あー、死にたい。多分これ、ゴミスキルとか言われてクラスから追放されるやつだ。しかも、この能力で無双する未来が見えないからそのまま終わり確定だ。


「……さ、さあ! 気を取り直して、他の方々もスキルを試してみるでござるよ! もちろん、距離は取ってくだされ!」

(ありがとう……この恩は一生忘れないよ、尊華さん……)


 良い感じに他の人の興味を逸らしてくれた彼女に、俺は心の中で最大限の感謝を表する。もし元の世界に帰ったら、彼女が狂うほど大好きだと言っていたロー○ンのチキンを奢ろう。


 そう思いながら、他のクラスメイトのスキルを見ていたのだが……


「『ロングフィンガー』……って、なんか人差し指だけ伸びたぁ!?」

「『空中浮遊』……なんか5センチくらい浮いてる!」

「『プリンター』! あの……誰かA4のコピー用紙いる?」


 俺が言えたことじゃないが、あまりにも微妙すぎる。いや、こういうのは変わり者だったり、クラスや学校内で有名な人物が強いのを持っているはずだ。白川さんは……


「ふぅ……行くよ、『テレパシー』っ!」


 おお、王道で強いやつ! これは期待できそうだ……と、思ったのだが。


『大原くん、聞こえまs』

(通信制限あんのかよ! しかも短い!)


 2秒ぐらいで途切れてるじゃないか! コミュニケーション能力としては強いが、2秒って……2秒って! ……よし、次だ。クラス1の暴君、緋田ならきっと魔物と戦える超攻撃的なスキルを……!


「うおおおおぉぉぉぉっ、行くぞ! 『スーパーオーラ』ッ!!」


 真っ赤なオーラに、緋田から吹き出すものすごい風と熱。なんて威圧感だ……! これは、もしかして……!


「これなら地面も割れ……いだっ!?」

(って、見た目だけかよ!)


 たしかにスキルの名前『スーパーオーラ』だもんな……オーラはスーパーでも、体がスーパーになるとは限らないし……なら、最後の砦だ。


 こういう異世界転移では、美少女だったりオタクっぽいキャラが強くなったりする。つまり、その両方を併せ持つ尊華さんなら……


「『タイニーエール』……皆の衆、拙者を応援して力を分け与えて下されぇ!」

「「「「尊華さーん! カッコいいー!」」」」

「頑張れ、最後の砦ー!!」


 応援されて強くなる、プリ○ュアタイプの能力か。これは期待できるぞ……!


「ふっ……応援、届きましたぞぉ! 力が漲ってきて……とうっ!」


 クラス中から溢れ出す声援、集まる注目。尊華さんは掛け声と共に、足に力を入れて跳び上がり……


「「「「おぉぉぉぉぉっ……oh……」」」」

「飛んだな、3メートルくらい……」


 確かに、強化されていた。タイニー(tiny)……つまり、少しだけ。確かに、3メートルジャンプというのは凄いことだが……クラス全員、32人で必死に応援してこれは……


「……かたじけないっ! 拙者はプリ○ュアにはなれませんでしたぞ……」


 うん、もはやこれでもマシだと思ってしまった瞬間に理解した。要するに……


(俺たち全員、微妙な能力なのでは……!?)


 凪川高校、2年B組の俺たち32人は、異世界にクラス転移させられた。ただし……使い所がわからない、かなり微妙な能力付きで。


(あれ、これ詰んだのでは?)


 さっき見た鳥のように、この世界にはあからさまにヤバい生き物がいる。木の形も仰々しいし、しかもここはどこかわからない森の中。


 恐らく魔物がいるであろうこの世界で、何も知らない、力も常人に毛が生えた程度の高校生が呼び出されてしまったというわけだ。


「……ま、まあ、能力の検証は残念な結果に終わったけど……みんな生きてるし、まずはそれを喜ぼう!」

「仕方ねえな……今は、生きることを考えようぜ」


 ……確かにこの先は不安だが、それでも前向きな白川さんと緋田を見て俺も少し落ち着いた。そうだよ、とりあえずみんな無事だったからいいじゃないか。


「そうでございますな! そんな、恐ろしい魔物が急に出てくるわけないでござろうし!」

「おいバカ、やめ────」


 やめてくれ尊華さん、それは多分フラグってやつだ。俺は嫌な予感がして、その発言を止めようとするが……


「……お、おい。なんだよ、あれ……!!」

「ば……ば……」

「「「「化け物だぁぁぁぁっ!!」」」」


 やっぱり出やがった!! まるで彼女の言葉に呼応するように出てきたのは、5メートル以上の体をした一つ目の巨人。手にはバカでかい棍棒をもっているし、サイクロプス……ってやつだろうか。


「グオォォォォォォォォォォォォッッ!!!!」

「に、逃げろ! 死ぬっ、死んじまう!」

「誰か、た、たすけ……いや……」

「もう終わりだぁぁっ! ママぁぁぁぁ!!」


 まずい、またパニックになってみんながバラバラになって……1人じゃ勝つのも無理、逃げるのも難しい、逃げられたとしても生き抜けない。このままじゃ……


『落ち着いて! まずはれいs』


 そう思った瞬間、頭に届いたのは頼もしい白川さんの声。みんなにもその声は届いたのだろう、慌てていた人の多くが正気を取り戻し、まだ落ち着いていない他の人を宥め始める。


(通信制限引っかかってるけどナイス!!)


 あの魔物(サイクロプス)、こちらに近づいてくるのは遅いからまだ少し時間はありそうだ。しかし……


(倒せるビジョンが見えないんですが……!?)


 速さはなくても、デカブツということはパワーも頑丈さも桁違いなはず。クッソ、どうすれば……


「おい、聞こえるかお前ら!!」

(緋田!?)

「俺はこういうの分かんねぇし、考えるのは尊華に任せる! 戦える奴は俺と時間稼ぎだ、手伝え!」

「「「「おっ……おぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」


 そんな風に迷っていると、緋田を先頭に多くのクラスメイトが魔物に向かって走っていく。でも、まともに動けるのは緋田ぐらいしか……!


「『スーパーオーラ』ッ!! 来いよデカブツ!」

「グォォォォォォォォォォォっ!!」

「って、当たったら死ぬぞこれ!? 援護頼む!」

「「「「おうっ!!!!」」」」


 ……と、思っていたら緋田がヘイトを買い、他の人が妨害に徹するようだ。確かに緋田の負担は大きいが、運動能力の高い彼なら出来るかもしれない!


「『ロングフィンガー』! 目潰しだ……って突き指したぁ!」

「『空中浮遊』……俺も少しは動けるんだぜ!?」

「『プリンター』! A0サイズの紙なら、砂埃とか防げるよ!」


 すごい……全員死ぬほど地味だけど、確かに戦いに貢献している。俺も何かやらないといけないけど、音楽を流す能力じゃどうしようもない。でも、尊華さんの『タイニーエール』ならもしかしたら……!


「尊華さん! 俺にも何か手伝えることは……」


 そう思って急いで彼女のもとに走っていったのだが……そこには、うずくまって震えている尊華さんの姿があった。


「わわわわわわ、私じゃ、無理ぃ……あんな化け物、勝てるわけが……」

「尊華さん……?」

「こんな能力じゃ、何にもできない……怖い、怖いよぉ……!」


 さっきまであんなに元気だった彼女が、あの化け物を怖がって泣いている。確かに、怖いのは分かるけど……今、1番あいつを倒せる可能性が高いのは彼女だ。


「お願い、尊華さんの力が必要なんだよ! 立って!」

「いや、嫌! 私たちは、ここで死ぬんだぁ……」

「尊華さんの力なら倒せるかもしれないんだ!」

「無理、無理だよ!!!!」


 しかし説得する以前に、彼女はもう動けなくなってしまっていた。その目が、絶望の色に染まっていた。


「私だって帰りたくて、最初から怖くて……それでも考えろなんて、みんなの命を懸けられて……泣きたい、よぉ……」


 そう告げる彼女の姿は、あまりにも弱々しくて……本当は、怖かったということが伝わってくる。


(なら、どうすれば……!)


 分からない。どうすれば彼女を元気づけられるのか。どうしたら、彼女を戦う気にさせられるのか……


(……『怖かった』か)


 ……怖かったんだとしたら、なぜ初めから今のこんな状況にならなかったのだろう。落ち着ける時間だって少しはあったのに、普段は大声を出さないのに……どうして、みんなを引っ張って来れたんだろう。


「……尊華さん、聞いて」

「ふぇ……?」

「俺は……今から、あいつに突っ込む」

「……な、何を言って……!」


 その答えはきっと、彼女が優しいからだ。慌てているみんなを見て、怖がっているクラスメイトを見て、自分よりも他人を優先したからだ……と、思う。


「はっきり言って、俺はまともに戦えない。きっとすぐにペチャンコになる」

「だったら、なんで……!」

「……俺は、尊華さんを……()()()()から!」

「待って、大原くん……!!」


 なら、今だけはその優しさを信じよう。俺は尊華さんに心からの『応援』を送って、サイクロプスに向かって突っ込んでいく。


(怖い……俺だって怖いよ! みんな、怖いよ! こんな訳わかんない能力で異世界飛ばされて、変な魔物に襲われて! でも……)

「何もできないのは、もっと怖い!!」

「────っ!!」


 俺はまだ、何もしていない。このまま終わったらコンビニの音楽流して死んだ奴になる。そんなの、死んでもごめんだ!


「おい、こっち見ろデカブツ! 『コンビニ・ミュージック』!!」

『サー○ル○イサン○ス♪ サー○ル○イサン○ス♪ サー○ル……』

「大原!? お前、何やって────」


 瞬間、俺の近くからサー○ル○イのテーマが爆音で流れ始める。案の定、サイクロプスは緋田から意識をこちらに向け、一気に突っ込んできた。


「お前、死ぬ気か!?」

「違う! 信じて、待ってろ────!」


 俺の耳には、ほぼサー○ル○イの音しか聞こえないけど……それでも、きっと彼女なら来てくれる。俺には、そんな確信があった。


「グォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!」


 鬱陶しい、と言うように目の前の巨人が叫び、俺に向かって棍棒を振り下ろす。


「大原っ!!」

「大原くんっ!」

「「「「うわぁぁぁぁっ!!」」」」


 悲鳴のような声が聞こえてきて、俺も死ぬんじゃないかと錯覚する。だが────


「大原殿ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

「尊華さん……信じてたよ!」


 尊華さんが、棍棒が当たる寸前に俺を抱えて避けさせた……ほら、やっぱり優しいじゃないか。この人なら、きっとこの魔物も倒せるはずだ。


「大原殿の命懸けの『応援』、心にしっかりと届き申した! さあ、悪しき魔物よ……身体能力1.5倍の拙者が、尋常にお相手致す!!」

「命懸けて1.5倍なの!?」

「拙者のスキルを舐めるなでござる! 確かにマシにはなったものの、倍率はクソでござるよ!」


 前言撤回、ちょっと待ってくれ! それは流石にまずいんじゃ……


「グォォォォォォ! グォォォォォォォォォォッ!」

「よっと! ほっ! かなりキツいでござるなぁ、これは!」


 やっぱり、避けるので精一杯みたいだ。このままじゃジリ貧かもしれない……!


『ほら、みんなも応援をs』

「……そうだ、お前ら! ボーっとしてんじゃねぇ! 頑張れ、尊華ぁぁぁぁっ!!」

「「「「頑張れぇぇぇぇっ!!」

(言い切れてないけど言いたいことは伝わったよ、白川さん!)


 だがしかし、白川さんのテレパシーと緋田の大声をきっかけに、他のみんなからも応援が飛び交う。すると、どんどん尊華さんの力が増していく。だが……


「力がみなぎりますぞ! 3倍オタクパンチっ!」

「グォォォォッ!? グ、ォォォォォォン!!」

「あと少し、足りませんぞっ……!」


 決定打には、あとほんの少しだけ力が足りない。殴ればダメージは入っているが、尊華さんの精神と体力も心配だ。こんな時、俺が出来ることは……


(……俺が出来る、『応援』は……これだ!)


 ()()()()を思いついた俺は、急いでサイクロプスの後ろに回り込む。


「大原! お前、何を……!」

『何か考えがあるかm』

(ああ、そうだよ! 俺が出来る最善の手は……)


 そして、サイクロプスの背後から……


「これが、俺の全力だ!! 行くぞ、『コンビニ・ミュージック』ッ!!!!」

『ロー○ン♪ ロー○ン♪』

「グォォォォォォォォォォッ!?」

「ここここ、これはぁ!」


 かなり古いものだが、結構前に流れていたロー○ンのCMを爆音で流し込む。この音楽で、サイクロプスの意識を逸らしつつ……


「尊華さん、みんな無事で一緒に帰って!! L○キ、食べよう!!!!」

「それは、拙者の……大好物では、ございませんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 尊華さんを応援するなら、やっぱり『ご褒美』が1番効果的だろう!


「グォォォォォォォン!?」

『みんな、もっと!』

「「「「頑張れ、尊華さぁぁぁぁぁん!」」」」


 あまりの爆音に耳も頭も痛いし、力を出しすぎているのか体も痛い。それでも……サイクロプスが怯んでいる今がチャンスだ!


「いけ、尊華さん!」

「これにて、終幕ですぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 そのチャンスを逃さず、彼女は今までで1番高く跳び上がって拳に勢いを付ける。そして……


「これが必殺の5倍……いや、10倍オタクパンチですぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

「グォ……ォォォォォォォォォォッ!!」


 身体能力(自称)10倍の尊華さんが放った拳が、目の前の巨人の目を貫く。そして……


「オ、ォォ……ゥ……」

「勝っ……た?」

「我々の……勝利ですぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」

『みんな、本当に凄k』


 戦いは、終わった。完勝なんて言えない、ギリギリの戦いだったけど……みんなの力で、みんな無事で、確かに勝てたんだ!


「大原殿……ううん、大原くん。ありがとう……私に、力をくれて」

「そんな、やったのは尊華さんだよ。助けてくれて、ありがとう」


 全身が痛くてぶっ倒れている俺に向かって手を差し伸べながら、尊華さんは俺にそう告げる。でも……これは、みんなの勝利だ。


《経験値を取得しました。レベルがアップしました》

「うわっ、頭の中にまた声が!?」

『わ、私じゃないかr』

「レベルアップ!? テンションMAXですぞぉ!」

「ゲームとかのアレだ! すげえ!」


 そんな勝利の余韻に浸る暇もなく、今度はレベルアップという声が頭の中に響いてくる。体がほんの少しだけ軽くなったような気がして……確かに、強くなった感じがした。


《スキルレベルがアップしました》


 おっ、スキルレベルアップ!? もしかしたら超強化されたかもしれないと思い、俺は《コンビニ・ミュージック》を確認する。だが……


「『コンビニ・ミュージック』、コンビニとファミレスの音を流せる……って、そうじゃねぇぇぇぇぇぇっ!」


 やっぱり、俺たちのサバイバル生活はまだまだ過酷なものになりそうだ。だが……


(…………まあ、なんとかなるか)


 それでもきっと、この32人ならこの世界で生きていける……そう、心からそう思えたのだった。

長文、お付き合いいただきありがとうございました。


『面白かった!』

『これから先も見てみたい!』

『デ○リーマート派なんだよね……』


と思って頂けた方は、ページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価、ブックマークして頂けると幸いです。


好評だったら続編(連載版?)みたいなのも出してみたいなと思ってます、よろしくお願いします!

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