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第7話 『元勇者の冒険者学校入学Ⅰ』

 聖剣の暴走によって満身創痍になり、その後も同い年くらいの少女に何度か意識を刈り取られ、這々《ほうほう》の体で適当な宿舎を取って倒れ込むように寝コケた。


 そして今、俺は意識のある状態で、両の足でしっかりと立って朝日を浴びている。

 ここは――ダンジョン都市デイルド!


『ここから物語が始まるゥと言わんばかりにテンション上げてッけどよォ。俺っちもそこに含まれてるッてのを忘れんなよォ?』


「……オマエが話しかけてきたせいで、そんなテンション消し飛んだわ。だいたい、俺はオマエを宿舎に置いて行っても良かったんだ。それを抑えて、こうして帯剣してやってるんだから余計な口出しせずに腰にぶら下がってろ」


『おうおう酷いねェ、次ッ襲われても絶ェ対助けてやんね』


「俺も助けてなんて頼んだ覚えはないしな。そうしてくれ」


 憎まれ口にを叩き合いながら、様々な市場の並ぶデイルド随一に賑わった通りを歩き続ける。生前に一度この街を来訪済みの俺は、迷うことなく冒険者学校の併設された冒険者ギルドへと向かっていた。

 

 それでも懐かしさのあまり、視線はきょろきょろと。

 時折、冒険者ばかり行き交う中に混じって、身なりと態度がお高くとまっている貴族連中を見かけるのは、おそらく継承争いに参加できない末子だろう。

 貴族の恩恵を受けるには遠すぎるであろう彼らは、プライドだけは一人前のなんとも厄介な存在だ。こういう輩はいつでもどこでも、何回生き直してもその在り方に変化などない。

 彼らは顔を上向きに、常に他者を見下せるような目つきで往来の中央を闊歩している。見分けるのは容易だ。


 ――それらに押しやられて道の端を歩いていると、一際大きな建物が見えてきた。この建造物を見るのは、トーマとしては二度目だが、ギルドというのはかくも大きく立派だったかと問いたい。

 

 生前に見ているはずなのに入る前から呆気にとられているが、当然中もだだっぴろい。巨人族も余裕で通れるほどの入り口を抜ければ、ただの受付ホールのはずが、そもそも受付窓口が三十番まで割り振られ、真横にびっしり並んでいるというのだからそれだけで圧巻だ。


「俺の村一個分……いやそれ以上かな?」


 あ、十二番窓口の受付嬢を口説いているアレは、冒険するにはめちゃくちゃ邪魔になりそうなマントを羽織っている……貴族だ。

 胸糞悪い光景を見てしまった。見なかったことにしよう。


「――うわぁ……私の家一万軒分はあるわね!」


 俺と似たような感想が後ろから聞こえてきた。溌剌とした声音の少女はとても好感が持てる。庶民だ。

 本来であれば振り返って、お友達作りにでも勤しんでいるところだが、


「あらっ? ――やっぱり、トーマじゃない! おはよ!」


 正面に回り込んできて、元気に挨拶してくるのは……残念でならない、先日のバーサクヒーラーっ娘だ。

 銀髪を揺らし、天真爛漫に振る舞うその姿は、その見た目だけは俺の好みを心得ている。見た目だけは。


「やっぱり! トーマも冒険者見習いに出てたんだ。お互い頑張りましょ!」


「――あのー、すみませんが、冒険者学校の手続きってここでできますか?」


 とりあえず、金髪セミロングに巨乳という出で立ちの受付嬢に声をかける。


「って無視しないでよね!?」


「んが!?」


 後頭部に拳骨を食らう。目玉が飛び出るかと思うほどの衝撃は少女の常人離れした腕力から繰り出されたもの。

 暴力に至るまでの思考プロセスが短すぎるものだから、無視したくもなる。


「スルーして悪かったが、見てみろ。この人の仕事の邪魔になってるぞ」


 ここは作戦を変え、とりあえずその場しのぎ。

 急に話に巻き込まれた受付のお姉さんは、後頭部から響いてきた重低音に怯えるなどして、巨乳を両腕に抱いてブルブルと震えていた。


「あ……そうね。――『ヒール』! 迷惑をかけるのは良くないわ。私も手続きしてくるから、先に終わっても帰らないでね!」


 コイツは基本的には優しいのだ。最初に手を出さないと会話ができないだけで――って、よく考えたらやっぱり優しくなんてなかった!?

 

 後頭部の腫れが引いていく。

 

 毎度毎度、いったい何がしたいんだよ。

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