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第32話 『元勇者VS魔王Ⅱ』

 ユノはまだ、救世の聖女の看板は背負わなくていい。

 だからこの戦いにユノを出張らせるつもりは毛頭ないし、それにマオの身体であまり無茶をさせたくもない。

 ゆえの提案なのだが――。


「調子に乗るなよ? 人間風情が。貴様が防いだのではなく、妾が防がせていたとは考えなんだか?」


 当然、自尊心高めの当代の魔王様に通じるはずもない。

 魔王という生き物は舐められたらしまい。貴族以上に体裁に敏感なのだ。

 ――だからこそ、この提案に乗ってこないはずがない。


「よかろう。一騎打ち、タイマン――かつてそれを望んで肉塊と果てた勇者は数知れぬ。貴様をその仲間入りにできるなら、これ以上楽しく、心地いいことはない」


 相討っても復活できる。その自負があるからこその魔王の余裕。

 すでに快勝と言わんばかりに笑みを漏らし、ダンジョンでマオが見せた凄まじい魔力を軽く凌駕する魔力塊が生成される。

 触れた傍から弾け飛んでしまうであろう。見ただけで分かるほどに強力な黒弾。

 魔王が俺に差し向ける手のひら、そこで着々と完成しつつある漆黒の球と呼応するかのように大気が震え、地鳴りが響く。


『アレをぶった斬る気じゃねェだろうなァ?』


「そんなのお前なら……いや、お前と俺ならあんなのいくらでも」


 ――斬れるさ。


 言い終える前に魔王が放ってきたのはきっと――。

 言わせたくなかったから。

 聞きたくなかったから。


 術者の手元から不意打ち気味に解き放たれた黒弾――。

 一秒にも満たぬ命のやり取り。

 人の感知できる領域を超えた場所で、力で、俺はすでに剣を下ろしていた。


 ***


「――よもや、ジェニトにこのような力があるとはの……」


 使い手の認識した悪全てを断ち消す。

 ジェニトは――聖女の、ユノの使う聖魔法と同じ性質でできていた。

 ゆえに、俺が放った斬撃は魔王のみを、マオに巣食う悪のみを斬り払い、分離することに成功していた。

 今喋っているのは俺が抱き留めているマオから引きずり出され、力なくたゆたう黒いもや


『俺っちも、お前たァ結構やり合ってきたけどよ。びっくりだぜ。俺っちの真価? とか、あとお前がそッんな妙ちきりんな姿だったこととかな』


 ……魔王も喋る剣には言われたくないだろう。


「聖剣ごときが減らず口を……。妾も千余年、ついぞ貴様が言葉を解するとは思わなんだ」


 俺と全く同じ感想を述べる魔王はただひたすらに驚き、感心し、ジェニトに呆れていた。


「まあよい――半、身は、ぁまだ残っている。ゆ……っくりとあの獣を誑かすとしよう」


「そうだ、これはその場凌ぎ。だけどこの勝利に限って言うなら、これは約束された勝利だ、俺が起こした――予定調和だ」


 お互い捨て台詞を吐き終えたところで。


「せいぜい――ぅかれてろよ、人間風ずぇ……我が真名はぁ」


 マオを抱えながら片手間に振るう聖剣の魔力のもとに、魔王の根源たる魔力の塊はし、ついには霧散して消滅する。


『おいおォい、あと一台詞くらい喋らせてやれよ? ンでもって名乗らせてやれよ? あれでも長年競い合った仲だぜ? ――それに……』


 この軽口が情を促すとは珍しい。

 だが、だからといって容赦するつもりもない。


『はぁァ……悪いな、魔王さんよ……。どォやらお前、知らないうちに今代の相棒のお怒り買っちまってたらしいぜ』


 どこを向いて喋っているのか。意志ある無機物から図り知ることはできなかったが、その剣からは郷愁が漂っていた。

 もしや、もしかすると、これは俺の誇大妄想だが、ジェニトって……。

 そもそも、聖剣と魔王の本質はどちらも魔力にある。この人格を持った魔力という共通点に何かしら感ずるものがあったって不思議ではないわけで。

 そうであれば、自分が『聖魔法』でできていることを黙っていたのにも納得がいく。

 そして、それでもなお自分の役目を、魔王討伐を果たし続けてきた彼に――。


『……ンなことあるか。聖剣がァ魔王を気にかけるなんて、どこの英雄譚だッてんだ』


 そんなこと一言も言っていないのだが……言わぬが花か。


『思ってる時点でもう伝わァってんだよ! このすっとこどっこい』


「そうか。ならお互い、これからもっともっと苦労するぞ――相棒」


『――――』


 ジェニトを黙らせることができるとは、俺のオツムも捨てたものではないらしい。

 ざまぁとばかりに、盛大にニヤけてみせると同時に俺は思う。


 ――ああ、たしかに、こんな聖剣には純情な勇者がお似合いだろう、と。

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