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第21話 『元勇者たちの撤退戦Ⅰ』

 救世主とは、やっぱりこの子のことを言うのだろう。

 そういう星のもとに、運命のもとに生まれてきた存在なのだろう。

 物語にのみ許されるカッコいい登場シーンを素でやってのける少女。


「――ユノ!」


「――トーマ!? っとクトリス先生に……まあいいわ。それより、自殺志願者は誰? コイツらなんかより先に私が殴って、そのしょぼくれた根性を治してあげる!」


 全身を魔物の何色とも知れぬ体液で汚しながら、ニコリと口元のみに笑みを浮かべてそう告げる彼女はまさしくユノ、戦闘狂……否、元救世の聖女その人である。

 

「どれだけ叩き潰しても見向きもしないんだもの! 何かあると踏んで、コイツらの後を付けてきたのだけれど、クイーンアントの横を過ぎったときには生きた心地がしなかったわ!」


 意気消沈していたパーティーにて、彼女の存在は極めて異質。

 生きた心地のしない経験をなぜこうも威勢よく語れようか。

 人億倍生命力に溢れ、他人の死を決して受け入れない姿には唖然とする他にない。


「先行した生徒は……?」


「第三層! 下の方が安全なのよ! ボロボロの満身創痍なんてアンタたちだけよ?」


 それはそれで知りたくなかった事実だが、死人が出ていないと聞いて、少なからず安堵した。

 死者がいないということは、魔王様としての実績は何一つない。

 ここにいるのは、幼くて、かわいいじゃじゃ馬な子だ。

 マオはまだ無害である。

 繰り返そう、無害であると。

 

「さあ、ここから抜け出すわよ! 死にさよならは言った? いいえ、死なんてシカトしてやりなさい! そのために私がいるんだから!」


 依然、敵を殴っては散らしながらのこの発言は、ともすればキチガイ判定を食らいかねないが、この状況を覆せるだけの力がユノにはある。

 繰り出されるセリフが逐一気取っているというか、なんというか……最高に勇者している。


「『ヒール』! エンチャント『アームド』!」


 その声に呼応して傷は癒え、肉体強化の魔法によって、疲労に支配され気だるげな身体は無理やり覚醒させられる。

 どうやら、聖女固有の魔法――聖魔法はまだ身に付けていないらしい。


 ――であれば、救世の聖女と呼ばれるにはまだ期間があるだろう。


「よし、私からの作戦としては命を大事に! 死が襲ってきたら私がぶっ殺すから、安心なさい!」


 拳を固め、関節を鳴らし、おおよそ作戦内容に相応しくない彼女の戦闘狂のような振る舞いだが、それだけに守られる側には絶大な安心感がもたらされる。


 だからこそ――、


「俺も付き合おう。先生とマオは退路を!」


「分かりました!」


「う、うむ!」


 若干一名、頭数に入れるには不安な面が残るが、つべこべ言ってもいられない。

 もはや背後より通路奥から出てくる魔物の数のほうが多い。

 これを非力だからと、一般人を装ってユノに任せていられるはずがない。

 もうユノを何があっても死なせたくない。


「――ユノだって救われて当然なんだ」


 死の間際の光景を、後悔を繰り返すまいと口に出して、俺より少し小さな、マオとさほど変わらぬ身長の少女と肩をそろえて並び立つ。


「もちろん! 死んでやるつもりなんてないわよ!」

 

 伊達に身をていしてかばわれていない。

 ……全然信用ならないお言葉である。

 

 ――さて、ダンジョン攻略はそっちのけで。


 ――撤退戦の幕開けである。

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