召喚
べちょ。
音と共に私の目の前には一体の水死体があった。
髪の長い、皮膚がふやけきって膨張したうつ伏せの恐らく全裸の死体だ。
私はなんてものを召喚してしまったんだ。
確かに生者とは条件に組み込んでないけど、人って入れたんだから死体なんて選んじゃ駄目でしょ召喚陣!
「ゔ……」
ちょっと呻いた!? 生きてる!!!
「こんにちは!」
人間、どんな時にも第一印象。明るく爽やかな挨拶大事。
声掛けと共に横顔らしき場所を覗き込む。顔もぶくぶくしててよくわからん。
「……きみは……?」
しゃべった! 良かった。生きてた!
勢いで推定手だと思われる部分を握った。
「私名無し! 君を召喚したの! 私の道連れになって!」
「え……う……さ、さわ……僕にさわっ……て…………」きゅぅ
スキンシップは苦手なのか、おそらく驚きで見開いた、それでも腫れぼったくて小さなフローライトのような瞳をあっという間に閉じてしまった。
「え、私のせい? ……まさか……よもや……そんな今度こそ死……」
会って数秒。これから壮大な旅をする(かもしれない)私の相棒がっ! 道連れが! この世界を知る命綱が!!
水死体じゃないって安心した側から、握手で死んでしまうなんて……
とりあえず、手首で脈確認した。なんとかとれた。
「よかった」
安心したけど、このままにしておくわけにはいかない。
ここは木漏れ日溢れる森の中のちょっと開けた場所。
土以外まぁ、なんにもない。
寝かせておくにしてもベッドをつくらなきゃならないかも。
こんな土の上で寝たら体痛くなっちゃうよね。ぶよってるけど。もう寝てるけど。
神さまにもらった緑の魔法でどうにかしよう。
成長させて、ベッドになる植物?
あ、藁のベッドとかならすぐいけるのでは?
いや、枯れてないと痛いかな。
ううん。寧ろ枯れるところまで成長促進できるかやってみよう。
魔法の使い方なんて知らない。召喚した時も心から気合いを込めて願っただけ。
「藁よ。出ろ!」
出ない! なんで〜?
あ! 藁って植物じゃないのか? タブレットさーん藁ってなにー?
呼ぶと光って手元に約束したタブレットが現れた。神さまぐっじょぶ!
早速検索すると…稲わらっていうのが出てきた。
「そうか。藁は稲で出来てるのか……」
常識ですか?私は知らなかったよ!
「いでよ! 稲!!」
ガサガサガサー
「うわぁ〜」
なんと言うことでしょう米まで稔ってる!
でもここで終わりじゃない。枯れるところまで! もっともっと育て!
「出来た〜」
ドライフラワーみたいになった藁というか稲(米つき)
ナイフも何もない為、切れないので倒してそのままだけど、
土の上よりはマシだよね。でもそのまま寝るとやっぱり痛そう。(主に米で)
「しーつしーつがほしいぞー」
あれ? 衣類も確か草でなんとか。麻? 寒そうだし加工できん。あ、そうだよ。綿! 綿!
綿を藁の上に敷いたら痛くないのでは?
綿って確か綿の実だか種だかを包んでる部分だったよね。検索しよっと。
検索したら一人でもなんとかなりそうだったので、稲藁と同様に綿を出して収穫した。
ふぅ。なんとかたくさん綿とったー
種をとるのが地味にきつかった。それに一つでちまっとしかとれないでやんの。
100個くらいは頑張ったけど、限界。
とりあえず簡易藁ベッドに綿をちらし、彼を寝かせる。
身長は私の半分くらいだから少年か!
なんかすんごいぶよぶよーゼリーとかくらげみたい。
髪も長ー内臓透けてるー
早速育てた綿で土とか水とか拭いてみたけどめちゃくちゃ綿が体にくっついた。
まぁ。全裸だったし? いいよね人工もふもふだね。羊みたーい。
人外ってやつなのかなぁ いやでも一応召喚時人間指定したよね。
外見はあれだけど、わたしの大事な道連れだ。
なるべく大事にしてあげたい。
優しくして絆されて欲しい。
あぁ。悪い大人だな。
「幸せにするよう頑張るから許してね」
◇
長命ゆえに孤独 外見故に受け入れられず
逃げることもできず まだ先の朽ちる日をゆめみる
‘そんななか 君によばれた
立ち上がれもせず土に伏せる
覗き込む君
僕を真っ直ぐにみる人なんて初めてだ
「……きみは」
声が出てびっくりした。僕はしゃべれたんだ。
その後、触れられることが記憶に無いほどだったためか
手を掴まれたことに驚いて、情けなくもすぐに意識を失ってしまった。
◇
検索したら稲藁がはじめに出たためそのまま採用しましたが、
後から麦わら帽子の麦わらも藁じゃって思いました。