中断
「マリリンさーん!」
扉から手招きしてマリリンさんを呼ぶ。
「あら? どうしたの?」
突然の打ち合わせにない私の行動に驚くマリリンさん。落ち着くように笑いかけながら話す。
「白熱されているようなので、少し休憩してはいかがでしょうか? お客様も旅の疲れもあるのでしょう! お茶のおかわりをお持ちするので、ぜひ!」
後半は声を張り上げ、室内の変態宗教関係者へ聞こえるように話した。あちらも興奮し過ぎたと気付いたのか、大人しく席に座っている。
続けてマリリンさんにだけ聞こえるように小さく話す。
「それから、お客様に私も少しお話ししなければいけないことが出てきまして。マリリンさん少しだけ私に任せていただけないでしょうか?」
「ええ。私は構わないけれど……」
困惑しつつも、頷いてくれた。
「それでは、その薄青い宝石の入った箱以外、一度店舗へ下げていただいてもいいですか? お客様がお求めなのはアクセサリーではないようなので」
「そうね。わかったわ。一旦アクセサリーは下げておく。それから念の為、村の男衆を集めておくわね。なんだか、変なお客様だし。うーん。やっぱり心配だわ。ナナシちゃん1人で本当に大丈夫?」
「はい! いざとなったら弟にマリリンさんを呼びに行ってもらうので、大事な売り物の保管の方をどうぞお願いします! あ。30分くらいは休んでいてくれて大丈夫ですよー!」
ささっとキムラたちにお絞りを配り、マリリンさんには箱以外のアクセサリーをしまってもらう。
「どうしてしまうのだ! それは我々の——」
「お探しの物は、別の物ですよね。青みがかった物をお求めなんですよね? それならこちらの商品は色味が全く違いますので、下げさせていただいても構いませんでしょう? もちろん。青い物は残しますし、それより、実はもっといい情報をご用意出来るかも知れません。例えば、——人魚の話し、とか」
キムラの耳元でこっそり囁くように言う。私があえて人魚と言うとキムラは驚いて食いついてきた。
「お前、何か知っているのか!?」
「まぁまぁ。落ち着いて下さい。お目に掛けたい物もありますので、少々お待ちいただけないでしょうか。お茶のお代わりをご用意致しますので、お飲みになりながら是非お待ち下さい」
マリリンさんは部屋を出、私はキッチンへ。エンジェル・トランペットとミントの幻覚作用増し増し特性茶の入ったポットを持ってきて、空いたカップに注ぐ。今度は寝室に行き、チェストに隠して置いた特大真珠と転がらないように下に敷いていた綿を一緒に取り出す。シーツを引っぺがし、マリリンさんに売ったブレスレットと対になるので出さなかったネックレスを重石代わりに使うこととした。
「クヴァレさんやーい。当たりだったから、これより情報収集作戦に入るよー」
隠れ場所で遠見しているだろうクヴァレに、長い水槽生活の初期に読唇術を身につけたクヴァレくんに、口元が見えるよう空中に向かってゆっくり大きく口を動かし、確認の為小さい声を出す。
「相手が逆上してきたらマリリンさんに伝えに行ってねー」
さて、作戦開始だ。
◇
空き家のキッチンにある勝手口の外、白い花の中に僕は隠れていた。玄関とちょうど逆に位置している為、家を回ってこなければわからない場所で、何かあればすぐに中へ駆けつけられるし、いざとなったらお店へ走って助けも呼べるからここにしたんだ。先程のナナシさんからのメッセージもしっかり受け取って、僕は何があってもすぐに動けるように改めて気持ちを強く持つ。
遠見で居間とナナシさんを交互に見ているけれど、ナナシさんと雑貨店の店主が部屋を出ても、来客者に今のところ怪しい動きはない。鳥を飛ばす事すら無かった。呆然として、静かにお茶を飲んでいる。もしかしたら、ナナシさんが用意した、あの布や飲み物に興奮する作用や冷静に思考をさせない作用もあるのかも知れない。
そんなことを思っていると扉を開けて、ナナシさんが部屋の中へ入ってきた。先程と同じ生成りのズボンに焦茶の上衣。いつもの格好の上に頭から後ろに長い白い布を被って目元が見えないようにしている。それに、ぼ、僕の涙で出来た首飾りをシーツを固定するように額の上から耳の後ろを通って項まで絡めている。恐らく何か考えがあっての格好なのだろうけれど、なんだか顔が熱くなってしまう。
手にはいつかの、恥ずかしいくらい大泣きした時に出来た大きな僕の涙。あの時は何が起きたかわからず、異臭、異音への恐怖と僕のことなのに自分の為と言ってくれたナナシさんの気持ちが嬉しくて、あと無事に帰ってきてくれた安堵とか色んな気持ちが心にあって、その珠も複雑な色味をしている。上が薄青、下が薄黄色、中間はふたつが混ざって黄緑に。恐怖と幸福。それが入り混じった当時の僕の感情そのままだった。は、恥ずかしい……。




