真珠
「お腹……空いた……」
あの後、レタスとキャベツを追加して。りんごとみかんの低木も外に生やした。
でも、やっぱりそれじゃお腹に溜まらないし……はっきり言おう……もう飽きた。
私は菜食主義には染められないようだ。
「少年よごめんよ。不甲斐なくて。お金稼いで何か主食を! 火を!
パンとか米とか肉とか!!! 美味しいもの食べたい! 食べさせたい!!」
「ありがとうございます。僕のことは気にしなくても平気ですよ。
あなたのくれる物は全て魔力がこもっているので僕には充分なんです」
「え? そうなの。すごい省エネだね。
肺も胃腸も人外仕様。内蔵人魚系男子だね!」
◇
彼女はまた僕にはよくわからないことを言って楽しそう。
「それにしてもよく乾いたよね。もう臓器も髪も透けてないし。普通の人間みたいになった。
そろそろ歩いてみようか?」
「はい。歩いてみたいです」
土の上を歩くのはいったいいつぶりだろう。
どんな感触だろう。水の底、ガラスの床は冷たくて硬かった。
それ以前のことはあまり思い出せない。
◇
「靴はないから、とりあえずその場で立ち上がってみようか?」
「はい!」
この数日のように手を繋いで座った状態から藁ベッドの上で抱き起す。
まだフラフラしてる。でも座り込むようなことはない。
いや、そんなことよりも体に張り付いていた綿が全部落ちた。
「服もなかった……全裸だった……」
真っ赤になるクヴァレ。心なしか髪まで少し赤い。
「ごめんなさい!」
とりあえず、潔く全裸にしてしまった事をクヴァレに謝った。
少年は赤くなって俯いた。かわいい。そして、申し訳ない。
とりあえず、初日に育てたさつまいもの葉っぱを大事なところにぐるぐる巻いた。
ここでは関係ない事だが、ウロには土がなく、さつまいもは埋まる事なく葉っぱの陰に実っていた。
なぜ関係ない事を思い出したかって? 現実逃避である。
「……僕が裸だったから……」
「いや。そんな状態で喚んだの私だから。
むしろ全裸で水槽に入れ込んだ神殿関係者が変態なだけだから。クヴァレは1mmも悪くないから!」
それにしても——
「やっぱりどこかで何か調達してこないと……
ここら辺で服とか買えそうな人里があるといいんだけど……」
◇
ナナシさんの言葉を受けて、僕は目を閉じて自分の周りからさざ波のように魔力を流した。
生物の反応を探す。見つけた。
「ここから東の方向に集落があるようです。歩いてどれくらいかわかりませんが
そんなに遠くはないはずです。一緒に行けたらいいのですが」
まだ歩けるかもわからない立つにも補助のいる僕は完全に足手まといだろう。
「ほんと!? ありがとう! 行ってみるよ!
あとは何か交換してくれそうなものを探さないとだね。
果物とか野菜とかあとさつまいもか、ちゃんと取り替えてくれるかなぁ……
この世界にない食べ物だと怪しがって交換してくれないかもだよね」
「それならこれも使ってください」
ずっと恥ずかしくて隠していた手のひらいっぱいの白い珠を
しゃがみ込んで藁の下から取り出す。
「うぉっ真珠!?」
「名前はわからないのですが、
宝石と同じように取引できると思います」
「いつの間にこんなに」
「あの、僕の目から出たものなんです…」
「リアル人魚。」
「気持ち悪いですよね。触りたくないですよね。
ごめんなさい。でも、価値はあるはずなんです」
「いやいや全然全く気持ち悪くなんてないから、
むしろそんな綺麗なもの売っちゃっていいの?」
綺麗って言った。
「はい。いただいた魔力でできたような物なので
嫌でなければ、全部持って行って下さい」
ナナシさんは僕を否定しない。気持ち悪がらない。
綺麗は、褒める言葉だ。たくさんくれる。僕は汚くない。
また涙が出る。
「おお!? クヴァレ大丈夫? どうした!?」
「……ごめんなさい。嬉しいんです……」
「そっかぁ〜 よかった。
あー、ほんとだ。これまでベッドの上ではあんまり見えなかったけど、真珠になってるねぇー」
「きらきらして綺麗だね!」




