Ⅴ-③
太刀川市 市街地 18:30時――
また一人、女神からの依頼を受け、転送されて来た者がいた。
珍しい桃色の髪に、これまた最近はとんとお目にかかれない、分厚い瓶底メガネを掛けた少年だった。
「あれ? 夜だ。ミッション開始は朝からだよな? オシリス?」
「ええ。時空に歪みでもあったのかしら?」
少年は今一つ状況を把握していないようだ。
すると、奥から人影が現れた。紺色のスーツを着た、少し背が低めの女性だった。
「お疲れ様です! お会い出来て感激です!」
「ああ、アナタがコンシェルジュの方ですか?」
「はい! 小松右京と申します。ムフゥ」
「ちょっと、転送の時間、おかしくないですか?」
「いいえ。私が承っている時間は、ジャストぴったんこのドンピシャでございましたよ?」
「どういう事?それって」
「さあ? わかりませんねぇ」
少年は顎に手をやり、少し考えたあと、ため息混じりに言った。
「ふう。まあ開き直るしかないか。女神様の考える事だしね。ミッションについて確認しておきましょうか?」
「その前に、とりあえずお食事でも? それともお風呂ですか? もしかして、もっとロマンチックな事でも?……ムフゥ」
「フフ。面白い事言いますね。そうだなぁ、この辺って僕のいる世界線と大体同じ……あ! あれって、何です?」
「ああ、今お連れしようと思ってたんですよ。『湯~大陸』」
少年が指さした先には、古き良き銭湯をモチーフにした、俗に言う『スーパー銭湯』であった。
「なるほど、あそこならお風呂に食事付きで、仮眠もとれるな。右京さん、行きましょう♪」ニパァ
「ひゃうぅぅぅん」
右京は少年の満面の微笑みに、意識が飛びそうになっている。
「くぅ、こ、コレがかの有名な『ハニカミフラッシュ』、通称『ニパ』なのですね?」
「ぼさっとしてないで、早く行きましょうよ」
「は、はいぃ、只今! ああ、幸せ」
嵐の前の静けさ、なのだろうか?
◆ ◆ ◆ ◆
スーパー銭湯『湯~大陸』 18:45時――
腹ごしらえを終えた薫たちは、最後の夜を満喫すべく、アパートから徒歩で10分ほどにある、『スーパー銭湯 湯~大陸』に着いた。
左京も誘ったが、気を使われたのか、「皆さんでどうぞ」と遠慮された。
「よし! 早く入ろうぜ! うら若き乙女、三名様ごあんなぁーい!」
「おい、引っ張んな、入る、入ればイイんだろ?」
「俺、男なんだけど」
リナは上機嫌で薫の腕をがしっとホールドしながら、グイグイ中に入って行く。
「じゃあね、忍。マッサージチェアの所で待ち合わせね♪」
「わかった。ちぇ、なんだかなぁ……」
雪乃が入浴料を払い、女湯の脱衣所前で忍と別れる。
忍は男湯に一人で入るので、つまらなそうにしていた。
◆ ◆ ◆ ◆
女湯――
「ちょっと、リナさん? 丸見えですわよ?」
「イイじゃねえかアネキ、減るもんじゃねえしよ」
リナの余りにもおっぴろげな態度に、薫は苦言を呈した。
薫は大きめの手ぬぐいを前にあて、肝心な所を隠していた。
「もう、小さい子じゃないんですから、もう少し恥じらいとかを持ちなさいな」
「そういう雪乃先生は、タオルなんかで完全防御ですかい? それじゃあ萎えるぜ? なあアネキ?」
雪乃はバスタオルをぐるりと巻き、リナが言う『完全防御』だった。
「そうかしら? 雪乃は十分セクシーだと思うわよ」
「あまりジロジロ見ないで。 でも薫、嬉しい事言ってくれますね」
雪乃は、薫の視線を感じ、モジモジと身体をひねっている。すると、
「こんなもん、取っちゃえ!」ガバッ
「アーレェー」
後ろからリナが雪乃のタオルをはぎ取った。雪乃がコマのように一回転した。
一糸まとわずになった雪乃。思わず叫ぶ。
「いやぁん、まいっちんげ!」
雪乃は、両手をクロスさせ胸を隠し、片足を後ろに蹴り上げ、腰をひねる、いわゆる、『まいっちんげポーズ』を取った。
「お、『まいっちんげ雪乃先生』じゃん!」
「ば、バカな事言わないの! んもうリナったら」
薫は、バカ騒ぎしている二人を見て苦笑している、周り客の視線を感じ、二人から少し離れた。
イスが置いてある洗い場に速足で向かい、タオルを取って体を洗い始めた。
「あ、アネキぃ、アタイと洗いっこするって言ったじゃんかよ!」
「リナ、もう少し大人しくして。洗ってあげないわよ?」
「わかった。じゃ、始めよっか!」
薫がリナの背中を洗ってやる。
「どう? 気持ちイイ?」
「うん気持ちイイぜ。けどよう、前の方がもっと気持ちいイイぜ? アネキ」
「前は、自分で洗いなさい」
「アネキだったら、ダイレクトアタックして来てもイイぜ?」
「バカな事言うんじゃないの、何処がうら若き乙女よ?」
そんなやり取りをしていると、雪乃がすり寄って来た。
「私も、洗って差し上げますわ。薫」
「じゃあ、スリーマンセルで行こうぜ!」
雪乃が薫の背中を洗い、薫がリナの背中を洗う。そしてリナが雪乃の背中を洗う。
傍から見ると何てバカバカしい光景なのだが、美少女たちがやる分、何割か増しに見えた。
「よし、反転ね」クル
「うわ、おま、何すんだよ!」
リナは薫の身体を180度回転させ、対面となる。
とっさの事だったので、男言葉になってしまった。
「あ、ズルイわリナ、私が薫を洗って差し上げるの!」
「おわ、ちょっと待てお前ら」
「観念しなさぁい!」
ささやかな抵抗も空しく、二人の気が済むまで、隅々まで綺麗にされる薫。
「おう、エエ乳しとるやないけ? アネキ?」
「本当ね。大きさと言い、張りと言い、マーベラスよぉ」
「お、おい、そんな所、つまむなよ……力が抜けちまう」
二人は薫の身体を色んな角度で弄んでいる。
「次、アタイの身体も洗ってくれよ」
「私が先よ。アナタには譲り合いの精神はありませんの?」
「もう、勘弁してくれ……」
この後も、散々オモチャにされる薫であった。
◆ ◆ ◆ ◆
男湯――
「ここを出たら、この『フレンダー』って定食屋に行けばイイんだね?」
「ええ。では、ごゆっくり」
右京は女湯、少年は男湯にそれぞれ入っていく。
「とりあえず、お風呂に入って英気を養うか。女神様も粋な事するもんだね」
少年はぱぱっと服を脱ぎ、浴室に入る。
「うわぁ、広いな」
体を洗う為、イスが置いてある所に向かう。
「どっこいしょ」
体を洗い、シャワーで流した後、瓶底メガネを外し、シャンプーで髪を洗う。
シャンプーをシャワーで流し、少年は目をつぶりながらメガネを探したが、メガネが見当たらない。
「ええと、メガネ、メガネ、あれ? 無い!」
ささっと手探りで探しても、見つけられず困っていると、
「探してるのって、コレ?」
隣で身体を洗っていた黒髪の少年が、横にいる桃髪の少年にメガネを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます。助かりました」
「全然問題無い。良かったね」
そう言って黒髪の少年は、髪を洗い始めた。
シャンプーを洗い流した後、付近には少年の姿は無かった。
(湯気で良く見えなかったけど、桃色の髪でメガネ? まさかね)
「うわぁ、こりゃたまらんわい」
頭に手ぬぐいを乗せ、ジェットバスに浸かっていた少年。
腰にたくさんの気泡を含んだ水流が当たり、マッサージ効果は抜群であった。
「これ以上やるとお尻が痒くなっちゃうな。次は、なになに? 電気風呂? ちょっと痛そうだな」
少年が次に興味を持ったのは、電気風呂であった。
「ミッション前だから、体調管理は万全にしないとね。よし、ちょっと入って見るか」
そう言う意味なら、入らない方がイイのでは?
少年は恐る恐る電気風呂に浸かった。
「ひぃぃ、ビリビリ来るな。最長3分か。我慢我慢と。くぅぅ」
ヒノキ風呂に浸かっていた忍は、近くで騒いでいる少年の声に反応した。
「この声、さっきの子かな? どこにいるんだろ?」
忍はキョロキョロと声のする方を探っている。
「電気風呂、かな?」
少年は備え付けの時計を見ながら、推奨している3分が経過するのを待つ。
「うぅ、あと一分……だ、ダメだ、もう我慢出来ない!」
忍は、電気風呂の方に歩いていく。
「もう無理! や、やばい! 出る! 出っ……」
ザバァ
少年は、3分を待たずして、ギブアップしてしまった。
「ふう、出ちゃった。 凄まじい拷問だったな……あれ? お兄さん、大丈夫?」
少年が電気風呂から勢いよく出た先に、腰を浮かせ床にうつ伏せになっている忍がいた。
「キミィ、勘違いするから、そう言うセリフは控えた方がイイと思うよ? あと、前は隠した方がイイ」
「おっと失礼。うわ、お兄さん、鼻血出てるよ?」
「問題無い。心地よい刺激だった」グッ!
忍は親指を立て、シャクトリ虫のようにヘコヘコとそのまま脱衣所の方に這いずって行った。
「変な人だなぁ、待てよ、う~ん、どっかで会った事あるような……」
少年は自分の記憶を探っているが、思い出せなかった。
「ま、イイか。さぁて次はこれに入って見るか」
少年は、ヒノキ風呂に向かった。
◆ ◆ ◆ ◆
「あ、忍が出て来た、おーい!」
男湯から出て来た忍は、マッサージチェアに座っている三人と合流した。
マッサージチェアに座っている薫は、心なしか、ぐったりしていた。
「薫、お肌スベスベだね?」
「ああ、散々もみくちゃにされたからな」
「フフフ。それはご愁傷様」
忍は、疲れ果てた薫の様子で、大方の想像が付いた。
「いけない、薫が湯あたり起こしてるかも知れないわ?」
「アネキ、何か飲むか?」
「そうだな、フルーツ牛乳でも飲むか」
「まぁ、薫ったらお子様みたい。カワイイ」
珍しく忍は薫をいじった。
「うるさい。忍、男湯の方はどうだったんだ?」
「まさに絶景だった。静流に良く似た子が、電気風呂でイキそうになってた」
「は? のぼせてんじゃねえぞ? 忍」
「うん。確かにちょっとのぼせた……かも」ポォォ
忍は、先ほどの出来事と妄想を織り交ぜ、『賢者モード』に突入していた。
「ダメだな、こりゃあ」
「さあ、フルーツ牛乳を飲んだら、帰りますよ?」
そんなこんなで、ミッション四日目が終わった。




