城の主 【月夜譚No.7】
薔薇のような気高さではなく、野に咲く花のように素朴で可憐、それでいて芯の強さを感じさせる少女だった。見目は他の町娘達と変わりないのに、凛と立ったその姿は際立って見える。
共に連れてこられた娘等は怯えて一所に固まり一瞥もくれようとしないのに、彼女だけは違った。空色の瞳を揺らがせることなく、真っ直ぐに〝それ〟の目を見据えている。
薄暗く埃っぽいこの廃城の片隅に連れてこられた意味を、彼女は解っているのだろうか。否、解っているからこそあのような鋭い目を寄越しているのだろう。
〝それ〟は自然と口の端が上がるのを感じた。このような人間の娘を目の前にするのは初めてだ。面白い――そう〝それ〟が思うのも無理からぬことだった。
金の目を細め、頭上の耳を立て、長い毛に覆われた巨体を震わせる。〝それ〟――バケモノと呼ばれる彼が数年振りに笑った瞬間だった。