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私が彼を大好きになった話

作者: かんなづき

 これは、大好きな私の彼のお話です。


 

 ある冬の日、私はきつい腹痛とともに目が覚めました。生理痛です。


「いたたたた......」


 歩くのもやっとという感じで、とても学校に行ける状態じゃありませんでした。今までこんなにきついのは一回もなかったんですけど......。


 なんとかリビングまで行って、お母さんに事情を説明しました。お母さんはとても心配してくれて、暖かいスープを作ってくれました。学校にも休みの連絡をしてもらいました。


 そこから私は、一日中ベッドにこもって腹痛と戦っていました。


 ちょうど学校が終わるぐらいの時間になって、彼がやってきました。


「ミナミ! 大丈夫!?」


 あ、ミナミっていうのは私の名前です。ちなみに彼の名前はカイっていいます。


 彼はだいぶ慌てた様子で部屋に入ってきました。


「ぶ、部活は......?」

 

 私は布団にくるまったまま言いました。


「何言ってんだよ。ミナミが体調崩してるのにのんきに部活してられるかよ」


 それはとっても嬉しい言葉だったんですが、その時、私は彼を面倒くさいと思ってしまいました。できれば邪魔しないでほしいといった感じで。


 それから彼はベッドの縁に座って、寄り添ってくれました。


「俺にできることあったら何でも言ってくれよ」


 なぜか私は、怒りがこみ上げてきました。


「何? わかったような口きいてさ。私の辛さなんかわかんないくせに気安く関わってこないでよ!」


 私は鋭く言葉を放って、彼を跳ね除けました。


「えっ......」


 彼の困ったような表情をみて、私は我に返りました。なんてひどいことを、と後悔しました。でも、今更引き下がることはできませんでした。


「出てって、早く」


 彼はごめん、と言って悲しそうな顔のまま、部屋を出て、ドアを閉めました。


 ドアを閉めた後で、


「元気になったら、またデートにでも行こうね」


と優しい声で言ってくれました。


 私はドアの向こうから聞こえる彼の優しい声に涙しました。今すぐにでもごめんと言いたかったのですが、彼はそのまま帰ってしまいました。


 その後、彼から[ごめんね]というLINEが来ました。それを言うべきなのは私の方なのに。


 私は自分が嫌になりました。なんであんなこと言ってしまったんだろう、と何回も自分を責めました。それでも、私は[ごめん]と返すことが出来ませんでした。




 翌日になって、腹痛はなくなりました。


 私は今日こそ彼に謝ろうと、学校へ向かいました。


 でも、彼はいませんでした。


「あれ......」


 彼は高校に入ってから一年半、一度も休んだことがありませんでした。相当な理由がないと休まないはずなんです。


 先生に彼のことを聞きました。


「あぁ、体調不良って聞いてるよ。でも確かに珍しいよな、あいつが体調不良とか。なに? 喧嘩でもした?」


 先生は少しにやけながら、聞いてきましたが、何も言えずに俯いている私を見て、


「あ、ごめん。図星だった?」


と焦り出しました。


 私は前日のことを先生に言いました。


「そっか......。それは落ち込んじゃうかもなぁ......」


「最低です、私」


「気にすることないよ、お見舞いに行ってあげたら喜ぶんじゃないかな」


 先生は私に笑いかけて、職員室へ戻って行ってしまいました。


 お見舞いは行く気でいました。そこでちゃんと謝ろうと思いました。


 学校が終わって、私は急いで彼の家に向かいました。前日の彼もこんな気持ちだったのかなと思いました。好きな人に早く会いたくてたまらなかったんです。

 

 私は彼の家のインターホンを鳴らしました。出てきたのは妹さんでした。どこか申し訳なさそうな表情をしていました。


「お兄ちゃんですよね? ど、どうぞ......」


 何かあったのかなと思いましたが、聞くのはやめました。


 私は家に上がって、彼の部屋に行きました。


 こんこん


「はいよー」


「お邪魔します......」


「ミナミ!!」


 部屋に入ってきたのが私だと分かると、彼は目を輝かせました。それは私が好きな表情でした。


「来てくれたんだ! てか、ミナミの方は大丈夫なの? 体調」


 私は勇気を出して、口を開きました。


「ごめん! カイ。私、ひどいこと言っちゃって」


 私は彼に頭を下げました。すると彼は、大丈夫だよ、っと言って頭を撫でてくれました。彼は笑っていました。


「全然気にしてない。女の子だっていろいろあるもんね」


「え? じゃあ、なんで......」


 てっきり私がひどいことを言ったから休んじゃったのかなと思っていました。


「俺がバカなだけなんだけどさ、ミナミだけが辛いの許せなくって、俺もなんか痛みと戦ってミナミを応援しようと思ったんだ。それで妹にさ、急所蹴り上げてくれって頼んだんだけど、予想以上でさ、熱出たりとかいろんな合併作用起きちゃった。マジで痛くて動けねぇし」


 彼は恥ずかしそうに笑いながら言いました。


「そ、そんな......」


 私は彼に抱きつきました。


 彼は一緒に戦おうとしてくれていました。私の辛さなんかわかんないくせに、って。そんなことなかったんです。彼はわかろうとしてくれていたのに......。


「なんで......そんなバカなことするのぉ......!」


 涙が止まりませんでした。


 そんなの......


「......大好きになっちゃうじゃん......」


 私は彼を強く抱きしめました。離したくなかったんです。


「ごめん。今度からやり方考える」


 彼も抱きしめ返してくれました。


 ごめん。ごめんなさい。私のせいで。ほんとにごめんね......。


 私は彼の胸の中で何回も謝りました。そのたびに彼は大丈夫だから、と頭を撫でてくれました。


 ふと、思いました。私が伝えるべきことってごめんなさいじゃないのではないのかなと。だから、私は彼の目を見て、


「ありがとう......」


 そう伝えました。そしたら彼も私の目を見て言いました。


「ミナミはそういう顔が一番かわいいね。守ってあげたいなって思える。俺はそれが一番幸せなんだ。こちらこそありがとう、ミナミ」


 あぁ、もうだめだ。好き。ミナミ、死にまーす。


 私は気持ちが飽和して、沸騰してしまいました。目を合わせたらダメになってしまいそうだったので、彼の胸にもう一度顔をうずめました。


「でもあれだね、赤ちゃんできなくなっちゃうかもね」


 彼が冗談交じりに言いました。だから私も冗談交じりに返しました。


「大丈夫。イヤでも孕むから......」


「え?」


「え......? あ......」


 私は彼の言葉の真意を理解しました。一気に顔が熱くなって、私は彼から離れました。


 は、恥ずかしすぎる......。


「......な、なんでもないっ」


「えー!? なんだよぉ!」


 彼は悔しそうな顔をして、笑いました。


 ただの冗談だと思ったけど、よく考えたら子どもってことは、つまり......。


 け、け、けっこn――――


「あ、あの......」


 音もなく妹さんが部屋に入ってきました。お茶とお菓子を持って来てくれていたんです。私ははっとして振り返りました。


「あ、ありがとう」


「いえいえ。それよりごめんなさい。私やりすぎちゃいました」


「ぜーんぜん大丈夫だぜ! お前は気にすんなっ。俺がやれって言ったんだし」


 彼は平気平気、と妹さんをなだめました。優しい笑顔でした。妹さんはぺこりと頭を下げて、部屋を出ていきました。


「それにしても、元気になってよかったー」


「......ほんとにありがとう、カイ」


 彼の優しさにはたくさん助けられた。きっと、これからもたくさん助けられるだろうし、今度は私もたくさん助けるんだ。そう誓いました。


「それと」


「ん?」


「......大好き」


 私がそう言うと、彼はバサッと布団をかぶりました。


「ちょ~っとキュン死しそうなので待ってもらっていいっすか?」


「やだー! 待たなーいっ」


 私は布団の中に入り込みました。


 彼は、やばいやばい、と言って布団の中を逃げ回りましたが、私は何とか彼を捕まえて思いっきりキスしました。



 

 それからいろんなことがありましたが、彼は今も私の大好きな彼でいてくれています。私が辛い時も、彼が辛い時も絶対一緒に戦うって決めました。

 

「なんかこの病室も変わってきたなあ。そろそろって感じがしちゃうね......。機械も増えてきたし。でも、ちょっとカッコよくない?」


「機械無くてもカッコいいけどね」


 だから、残り少なくなってしまった彼との時間を、大好きで埋め尽くしたいと思っています。


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