1.いざ、紀伊ミュージアムへ
四国からフェリーで呉に向かいます。
いやあ、快適快適。乗り心地いいねぇ。天気が良いから窓から見える瀬戸内の風景も格別だ。
上機嫌で豪華シートにふんぞり返って、船内の売店で買ったもみじ饅頭をほおばる。そういや、昔あのネタをやってた芸人さん達は今どうしてんだろ?最近見ないね。コンビ解散したんだっけ?
俺はシーズンオフにやっと貰えた連休で四国観光に繰り出し、その仕上げにフェリーで呉に向かっていた。目的は呉にある大和と紀伊の2大ミュージアムだ。やっぱりライトな軍ヲタでも、ここは外せないよね。
ん?呉は四国じゃないって?こまけぇこたぁいいんだよ!
松山観光港から乗りこんでおよそ40分。川みたいに狭い音戸の瀬戸を抜けて、フェリーは右に緩やかに旋回している。
今乗ってるフェリーはスーパージェットとかいう双胴船型の水中翼船だ。なんと32ノットも出るらしい。昔の駆逐艦とか巡洋艦並みだね。松型よりずっとはやーい!一応は駆逐艦の癖に民間船に負けるって……やっぱり雑木林シリーズは悲しいね。俺は好きだけど。
そんな速さだから普通のフェリーだと2時間も掛かる所を半分の55分しか掛からない。やっぱりスーパージェットを選んで正解だった。
そんな事を考えながら、右手に広がる製鋼所の赤茶けた工場群の写真を撮っていると、船内放送が流れた。
「皆さま、本船はあと10分ほどで呉港の中央桟橋に到着します。前方正面に見えてきました大きな船が紀伊ミュージアムでございます。桟橋左のレンガの建物が大和ミュージアムです。両ミュージアムに行かれる方は共通入場券のご利用がお得です。桟橋売店でも販売しておりますので、お持ちで無い方はそちらをご利用ください……」
うお、やべぇ。もみじ饅頭なんか喰ってる場合じゃねぇ。慌てて饅頭をドリンクで無理やり喉に押し込んでキャビン前方に走る。しかし……
うーむ、何も見えん。
せっかく前に行ったのに前が見えない。スーパージェットのキャビンは前方に窓が無いのだ。横から見ようにも高速船だから窓は嵌め殺しだしデッキにも出れない。
せっかく紀伊を沖合から見たくてフェリーに乗ったのに。こんな事なら展望デッキのある普通のフェリーにしとけば良かった……。いやいや早く着いた分、紀伊ミュージアムをたっぷり見学すればいいんだ。明日、港内クルーズ船に乗ろう。
幸い、船が桟橋に近づいて速度が落ちれば良く見えるようになった。
でけぇ!
それが紀伊ミュージアムの第一印象。もう、ほとんど壁ですよ壁。鋼鉄の灰色の壁が海にそそり立っている。そんな感じ。
紀伊ミュージアムは旧日本海軍の空母「紀伊」の船体をそのまま利用した博物館だ。大和型の四番艦として起工され、信濃とともに当時世界最大の空母として就役した紀伊が、紆余曲折の歴史を経て今ここに在る。それを見に俺は呉に来たのだ。
俺は横須賀で米海軍の空母インディペンデンスも見た事がある。もちろん大きさだけなら向こうが遥かに上だ。
しかし、リベットバシバシに呉海軍工廠色の濃いグレーに塗られた紀伊の船体は、現代の海上自衛隊や米海軍の艦艇とは違う独特の重厚感があった。
その圧倒的な迫力に気押されて、俺は写真を撮るのも忘れ、ただただ紀伊を見上げていた。
信濃型のサイズは、現代ではそれ程大きくもありません。現代の米空母の方がずっと大きいです。
でも横須賀の三笠の方が遥かに小さいのに不思議と重厚感があります。現代の軍艦ってリベットでなく溶接を多用してるから、どうしても痩せ馬の凹みが目立ちます。それでペラッペラにも感じちゃうのが原因かもしれませんね。