08
「届くといいなぁ。」
ベースの調整をしながら、消えそうな声で大輔が呟いた。
会場に着いた4人は、早速機材チェックからスタートした。
幸い電源は通っている。他の機材も全く問題なく、無事にライブは開催できそうだ。
お客さんが来るかは、ホームページにコメントをくれた数人を除いて全くの未知数だったが、この際箱の埋まり具合など気にしてもしょうがない。
会場の管理人は最後の日くらいゆっくりさせてよと、4人に鍵を渡すなりさっさと帰ってしまった。
気が向いたら本番は見にくるよなんて言っていたが、本当に来てくれるかは定かではない。
「届くも何も、誰のためのライブよ。届かせないとダメでしょ。」
俊は早くもスイッチが入ったようだ。
いつもそうだった。いつもはゆるゆるなのに、本番が近くなりスイッチが入ると急にリーダーっぽくなる。
「そういえば、春奈つかまった?」
俊の言葉に、ホームページをチェックしていた宏樹は首を横に振った。
かつてのマネージャーとは、解散から連絡が途絶えてしまっていた。
あの日から。
春奈は最近は滅多に地元に帰ってきておらず、東京へ行ってから1度も、会うはおろか連絡すらしていなかった。
解散の際に喧嘩にになったことが、ここまでお互いを疎遠にさせるとは、あの頃の自分たちは思ってもいなかっただろう。
今回久々に集まることで、SNSやメールで連絡しようと試みたが、結局既読もつかなかった。
「ホームページ見て、ふらっと来てくれたりしないかなぁ。」
「もしあいつがホームページ見てたら、今頃はここで色々手伝ってくれてると思うよ。まさか本番だけ観に来るなんて、絶対ないね。」
大輔の寂しそうな顔に、俊は何て返していいのかわからず、俯いた。