06
「もしもし!もしもーし!」
狭い車内で声を張り上げる俊を、運転する剛は隠しもせずグイッと睨んだ。
車での東京への旅も3日目に差し掛かり、車中の4人の疲労はピークに達している。
「だーめだ!出ない!」
「まぁしょうがないんじゃない?地球最後の日に場所貸してくれるなんて、ただでさえラッキーなんだし。」
俊の後ろに座る大輔が気の抜けた声を出した。
俊が地球滅亡のニュースを知ったのは、nhkの最初の放送から数時間経った真夜中だった。
珍しく仕事が遅くまでかかり、家に帰ってテレビをつける頃には日付が変わってしまっていた。
一人で外回りを続ける仕事で携帯の電源も落としており、あんなに世間が騒いでいても俊の耳には入ってこなかった。
テレビは各局とも生放送の特番だった。
画面にはデカデカと「本当に地球は滅亡するのか」だの「地球滅亡までのカウントダウン」だの、センセーショナルなテロップが踊っている。
総理大臣の会見の様子が繰り返し流れ、有識者と名乗るおじさんがそれらしき話をつけ加える。
どこの局も内容はほとんど変わらず、俊は自然とNHKにチャンネルを合わせた。
翌日、俊は地球滅亡までの休みを確保するため、会社へ有休取得の電話を掛けた。
正直滅亡の話を100%信じている訳ではなかったが、もし本当に滅亡するならグズグズしてはいられない。
たった1つやり残したことを無視できなかった。
有休取得は思っていたよりもあっけなく完了した。
なんなら会社を辞めてでも取得する意気込みだったが、辞めるどころか滅亡明けには復帰するようしっかりお願いされてしまい、肩透かしを食らったようだった。
社長ワンマンの田舎の会社だから、こんな状況下では少しくらい営業を止めてでも社員離れを食い止めた方が良かったのだろうか。
もしかしたら、この機に社長も休みたかったのかもしれない。
メンバー集めは想像していたよりもはるかにスムーズだった。
こんなタイミングで東京でライブしようなんて突拍子のない俊の提案に、皆真剣に耳を傾け、協力してくれた。
いい歳してメンバー皆独り身だったことを、俊は密かに感謝した。
ただし、俊のようにすぐに有給を取れる人は流石におらず、出発は皆が揃う、地球滅亡まであと3日というタイミングとなった。
車は気の遠くなる渋滞をようやく抜け、まっすぐライブ会場へ向かっている。
今回借りることになったのは、過去に1度ライブをした事のある池袋の小さな箱。
管理人が当時のことを覚えているかはわからなかったが、そういう事ならと喜んで貸してくれた。
ある機材はそのまま使っていいと丁寧に機材リストまで送ってくれたが、会場の電源が問題なく動くかだけは当日行ってみないとわからないらしい。
「ここまで来ると、なんとなく覚えてるな。」
「東京遠征、何回かしたけど、全部近場の箱だったもんね。おかげでここら辺の道は覚えてるよ。」
宏樹の言葉に、剛が頷いた。
「会場選びは春奈の仕事だったよなぁ。」